──若い頃、人前に出るのはあまり得意ではなかったそうですね。
「いまも『はい、吉沢悠として人前に出て』って言われると苦手です。役があると違うスイッチが入るんですけど」
──いろんな役柄に成り代われるところが仕事のモチベーション?
「それもひとつあります」
──一番大きなモチベーションはなんですか?
「いまは……基本、役をもらうと『できるかな』とか『どうやって演じればいいのかな』って不安になるんです。不安になるということは、何かをやらなくちゃいけないし、責任がともなってきますよね。そういう状況の方が、生きている感覚がある。簡単にできてしまうことだったら、興味が持続しないと思うんです。できるかできないかぐらいのものが、僕のなかで演技として重なるんだと思う」
──台本を読んで「この役は大丈夫」って感じたことは?
「ほとんどないですね」
──じゃ、撮影が終わるまで笑顔は見られないんですね。
「いや、現場入ったら、ちょっと楽しくなるんですよ。台本で感じたものとは違う演技プランを共演者が繰り出してくると、『なるほど』って笑顔になります。監督の演出も、照明や美術も、現場のすべてがそう。『うわ、そう来たか〜』と。二十代の頃はそこまで視野に入っていなかった」
──自分の演技で精一杯だったと。
自分に、こんな需要があったとは
──キャリアを重ねるほど、いろんなものが見えてくる。ますます役者の道から抜けられなくなりますね。
「そうですね。逆に、違う仕事をやっていたらどうなってたのかな、って想像することもあるんです。それが全然ピンと来ない。俳優をやる前は公務員を目指していたんですよ」
──全然タイプが違う(笑)。これから五十代、六十代の俳優像は想像できています?
「イメージはありますけど……いまだって、二十代、三十代に想像してきた自分とは違う。自分でもわからないんだから、歳を取った自分がまわりからどう見られるかなんて、もっとわからないじゃないですか。ところが出演依頼は他人の印象によって、いただけるわけです。たとえば『アイアムアヒーロー』って映画には、けっこう気持ち悪いキャラクター(伊浦役)で出演しました。あのような役に需要が自分にあるとは正直想像していなかった。でも自分のなかに、ないものではない。『これが需要になっていくんだ』と感じたし、自分の可能性が広がったわけだから、うれしいですよね」
実は自分も……感心しました(笑)
──本作の光太郎はどうですか? 「オリンピックに出れるかも」という年齢設定の役でしたが。
「本当の年齢的には、なかなか厳しいですよね」
──「意外なところを見てくれた」という驚きはありました?
「光太郎の場合は、サーフィンのスキルじゃなくて、人間性の部分を、いまの吉沢悠に照らしてオファーされたと思っています。年齢の部分は新しい発見ではないですよ(笑)」
──それにしても……ずいぶん若々しかったですね。カラダも、銭湯で見かけるアラフォーじゃなかった。
「あのときは鍛えてましたね」
──「いいカラダだな〜」って感心しました。
「あれは……僕も感心しました(笑)」
一本一本、大事にしていくしかない
──将来をイメージしてもしょうがない、ということですが、今後はどう歩を進めていくのでしょう?
「木だけではなく、森も見る視点を持つ、ってことですかね」
──木はわかります。一本一本の作品、演技のことですよね? では森って?
「〝演技をできる自分でいられるかどうか〟……言い換えると、緊張感。いつでも〝自分は芝居をできる立場にいる〟って思わないこと。いつでも〝仕事があるって安心しない〟みたいなことです。
──〝呼ばれる仕事〟ですからね。
「ええ」
──では、そのために日々努力できることはあるんですか?
「一本一本大事にしていくことしかないですね、いただいた作品を。『これぐらいでいいだろう』と思ったら、『これぐらいでいいだろう』という役者として見られる。どの現場でも、自分がそのときできることを全力でするしかないと思います」
──それを実践していれば、「俳優とは」なんて考える必要はないんですね。
「考えるときもありますけど、考えてもしょうがないですから(笑)」
2019.5.24
[photo]久田路 [text]八王子真也
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