環境問題をめぐってあるカップルの温度が変化する様を描いた映画『温帯の君へ』。
第18回田辺・弁慶映画祭俳優賞をトリプル受賞した本作、
宮坂一輝監督、山下諒、二田絢乃、さいとうなりらキャスト三人が
その成り立ちについても教えてくれた。
中間の立場からふたりの衝突を描いた
──なぜ環境問題、気候変動をテーマにした作品をつくろうと思われたのですか?
宮坂「僕の1本目の長編映画『(Instrumental)』の上映初日に起きた出来事がきっかけになりました。6月にも関わらず、前日に気温が一気に上がって、真夏日になったんです。その年、初めて冷房を動かしたからなのか、全然効かなかった。それでサウナ状態の劇場に100人のお客さんを詰めて僕の映画を観せるという、謎の会になってしまったんです(笑)。暑さで映画を集中して観てもらえたかも微妙で、初日という一番大事な日を潰されて、憤りなのか、悲しみなのか、どこにも向けられない気持ちを感じました。映画で感じたこの苦しみを映画で返したいと思ったんです」
──でも、社会派映画にはしたくなかったそうですね。
宮坂「社会派映画をつくろうと思って、つくるのはちょっと欺瞞というか、順番が違うなと思って。自分の伝えたいことがたまたま社会に接続されていたら、結果的に社会派映画になるんだと思うんです。パーソナルな感情が社会と接続されたときに初めて誰の心にも刺さる映画になるんだと思います。起点はあくまでも自分でありたかった。「現在の社会を斬ってやるんだ」みたいな発想でつくることには違和感がありました」
──脚本を書くにあたってリサーチはされましたか?
宮坂「しました。(二田演じる)翠はCAFF(Climate Action For Future)という学生団体のメンバーという役なので、環境問題についての本を読んだり、環境保護団体のイベントへ取材に行きました。その過程で知り合った方に脚本を読んでもらって違和感があるかを聞きました」
──リサーチを経て、そのテーマが前面に出る可能性はなかったのですか?
宮坂「この映画は運動に熱くなっている人達と、それに対して冷めた目で見ている人、それぞれの言い分と衝突を描いています。実際の問題を前にしたとき、中立であることが必ずしも正しいとは思いませんが、この映画をつくる上では中間の立場でいたいと思いました」
──それぞれ脚本を読んだ感想を教えてください。
山下「脚本は映画の設計図みたいなものだと思うのですが、セリフ、シーン、展開と、すごく緻密に計算されていて、キレイだなと思いました」
──二田さんは?
二田「すごく面白かったです。いい意味であまり映画っぽくないというか、セリフや言葉が粒立っていると感じました。あとで宮坂さんに聞いたら、無駄な言葉、セリフを書かないようにしているとおっしゃっていて、すごく腑に落ちました。必要な言葉、セリフがあるべきところにあると感じました」
──さいとうさんは?
さいとう「山下くんと感想が似てるんですけど、すごくキレイなフレームを持った、お手本のような脚本にまず驚きました。一方で社会問題を大胆に取り扱っていて、その相反するバランスが面白いと思いました」
──脚本を読んだときと完成した映画では、そんなにイメージが違うことはなかった?
山下「いや、違いました。自分が脚本を読んで想像した映像よりも不気味に仕上がっていました。それは内容じゃなくて編集が。なぜそう感じたのかわからないですけど」
宮坂「この前は『不穏』とおっしゃっていたので、レベルが上がりました(笑)」
山下「(笑)」
宮坂「でも編集に関しては、僕は好きなようにやっているだけで『不気味にしよう』『不穏にしよう』とは思っていないんです。意図があるとするなら、映画は省略の芸術。だから映像で一番観せたいところをちゃんと観せて、言葉で説明しきらないようにスパっと切る、そういうことは意識しました。僕の映画では、アドリブはほとんどないんです。現場でやってもらうこともあるけど、結局使わないことが多くて。編集のことを考えながら撮影したり、脚本を書いてるところはあります」
──二田さんは?
二田「わたしは全然イメージが違って。もっと面白くなったというか(笑)」
宮坂「(笑)」
二田「指示がしっかり書いてある脚本なので、自分が演じることで監督の期待や予想の範囲を飛び超えることができたらと思ってはいました。でも、『(Instrumental)』を観て、やらなくても大丈夫だなと(笑)。宮坂さんが音楽や身体というものにちゃんと興味を持っていると思ったので。自分が自由に動いていれば、それを撮ってくれる気がしたから、信頼できました」
──宮坂さんは、準備段階のイメージと、現場で起きることの差にはどう向き合ったのですか?
宮坂「現場と準備段階では、僕の態度が違っていたと思います。準備段階では脚本の読み合わせをしっかりやって、イメージをちゃんと伝えました。でも、現場に入ったら役者さんのステージというか、もう演じていただくしかない。もちろんあまりにも外れていたら演出を入れます。だけど、やっぱりその場でしか出てこないもの、会議室で出せないものがロケ地では出るので、その場の雰囲気に合った演技が見えたら、もうOKでした」
──さいとうさんは?
さいとう「脚本を読む前、脚本を読んだとき、映画を観たときと、いい意味で違いましたね。撮影に入る前、宮坂さんに『この映画のテーマソングは何ですか?』と聞いたんです。そうしたら『まだ決まってないけど、クラシックかな』って」
宮坂「言いました」
さいとう「そのときは『クラシックか……』って思ったけど、ぴったりにはめてきたので。ダイナミックかつ繊細で、美しい曲線が出来上がったなと思いました」
山下諒×二田絢乃×さいとうなり×宮坂一輝 ▷後篇へ |