記者会見レポート

『母と暮せば』クランクアップ記者会見

山田洋次監督の本音「一番大事な映画になるかもしれない」

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2015.8.12@東京・港区


その二宮さんは、撮影初日を迎えるに当たり、相当緊張したと告白。
「感覚的な話で申しわけないですが、現場に入ってみると独特の空気を感じたんです。監督に紙とペンを渡されて、『自分の名前を書いてごらん』と言われたような感覚に陥りました。『あれ? これで合っているかな? 「二」と「宮」の間にカタカナの「ノ」は入れたっけ?』と混乱してしまった。32年間のいろんな経験が邪魔をしてそうなったんだと思うんですが、『これではダメだ』と思い直しまして、初日の現場には書きなぐるように全力で立たせてもらいました」
山田監督の『小さいおうち』にも出演している黒木さんは、ふたつの現場を比べて答えました。
「『小さいおうち』では“見守る役”なのでそうでもなかったんですけど、今回はセリフが多くて、しかも長崎弁。すごく苦労しました。それから吉永さんもおっしゃっていましたけど、監督の想いが強くて、『ちょっと怖いぞ』と思いながら演じていました」
「現場にいると『母べえ』で演じた“山ちゃん(山崎役)”に戻ったような気持ちになりました」と振り返るのは浅野さん。「今回は“黒ちゃん(黒田役)”なんですけど、間違えて“山ちゃん”と呼ぶスタッフもいたので。僕は『父と暮らせば』(04・黒木和雄監督)にも出演しているので、いろんなことが頭のなかでグルグル回って……不思議な経験をさせていただきました」

吉永さんと二宮さん、お互いの呼び方に関するエピソードは印象的です。
「僕は“和也(かずなり)さん”と呼んでいただいたんですけど、どきどきしちゃいます。親にも身内にも、1回も呼ばれたことがなかったので。僕の初めての人になりました(笑)」と二宮さん。
「間違えられることが多くて、初めての現場では、僕自身、もう“かずや”でもいいかなと思っているんです。ところが吉永さんは、暗に第三者に『わかるよね? この人“かずや”じゃないよ、“かずなり”だよ』と宣伝活動をしてくださった。『“かずや”でいいや』とあきらめていた自分をぶん殴ってやりたいと思いました(笑)。名前は大事です。吉永さんには、知らない人に子どもの名前を伝える母親のような接し方をしていただきまして、ありがたいなと思いました」
「どういう風にお呼びしていいのかわからなかったところ、二宮さんはずっと“小百合さん”って呼んでくださったので、それに感激して、距離が縮まった思いがしました。『撮影の間は本当のお母さんよりも私といる時間の方が長い』と言っていただいたんです。ですから、(テレビで)危険なことをしている二宮さんを見かけると、『大丈夫かしら、うちの息子』と思ったりしています」と笑顔で語る吉永さん。

「メッセージを立てて映画をつくるわけではない」と前置きをしつつ、山田監督は映画のテーマにも触れました。
「愛する人を失った人なら誰でも、亡霊になってでもいいから出て来てほしいと考えるんじゃないか。毎晩出て来てほしい、そして語り合いたいと願うんじゃないか。その語り合いはふつうの親子ドラマとは違う、深いものになるに違いないと思いました。その息子には恋人がいただろう、その恋人にはほかの人と結ばれて幸せになってもらわないといけないんだけど、それが息子にとってどんなにつらいことか、お母さんもそれを感じている──そこから物語が始まると思いながら映画をつくったわけです。もちろん、平和、戦争について考えてもらうキッカケになってもらえればいいんですが、そのメッセージのためにつくっているわけじゃない。これは“母の話”なんです」
「かけがえのない人を失った家族の悲しみの映画だと思います。終戦70年という節目にみなさんに観ていただいて、戦争のこと、命のことを考えてもらえるのは、私にとってすばらしいことで、声をかけてくださった監督に感謝しています」と吉永さんは加えました。その言葉に、ほかのキャストも静かにうなずくのでした。

折り鶴フォトセッション時、舞台に登場した大きな折り鶴とランタン。そこには平和への手書きのメッセージが。5人は折り鶴に込めた言葉を読み上げました。「『核のない世界を祈って』」(吉永)、「僕は『笑って明日を迎える』」(二宮)、「『普通に幸せに暮らせる毎日を』と書きました」(黒木)、「僕は『喜びをありがとう』と書かせていただきました」(浅野)、「折しもの川内の原発が再開した知らせを聞いたので、短く『反核』と書きました」(山田)。







[text]hco


母と暮せば
監督/山田洋次 脚本/山田洋次 平松恵美子 音楽/坂本龍一 出演/吉永小百合 二宮和也 黒木華 浅野忠信 加藤健一 配給/松竹 (15/日本)
1948年8月9日、長崎。助産婦をして暮らす伸子(吉永)の元に、3年前の原爆で亡くしたはずの息子・浩二(二宮)がひょっこり現れる。その日以降たびたび現れる浩二とさまざまな会話を交わす伸子。その浩二が一番気に懸けていたのは、かつての恋人・町子(黒木)だった。12/12~松竹系全国公開
『母と暮せば』のオフィシャルHP


ピクトアップ#96(8/18発売号)では『母と暮せば』の現場レポートを掲載しています。
またピクトアップ#97(10/17発売号)では『母と暮せば』特集をお贈りします。
表紙は二宮さん、黒木さんの2ショットです。


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