映画館デビューの年齢を下げていくことは、
大きなミッションでした

「こどもの映画館デビューをお手伝いする」。その想いからイオンシネマがスタートさせた「こどもの映画館シリーズ」。親子で楽しめる環境、そしてシリーズのためにつくられた作品とはどのようなものなのか。

――こどもの映画館シリーズという企画が生まれたきっかけは?
「ご両親と映画を観に来た子どもたちが、予告編の段階で泣き止まなくて仕方なく帰っていくことがあったんです。やはり館内が暗くて、音が大きいというのは、2、3歳の子にとっては怖い。そこでどうやったら怖がらずに映画館で楽しんでもらえるのか、考えた結果、この企画が生まれました。主婦の方々にリサーチしたり、イオンシネマで働いている主婦のパートさんの声も参考にして、子どもたちが映画館デビューしやすい環境をつくっていきました。そして最終的に、コンテンツに結びつけることが大事だと思ったんです」
――映画会社の配給作品ではなく、『沖縄美ら海水族館 海からのメッセージ』(14年1月18日公開)、『ぼくらは動物探険隊 富士サファリパークで大冒険』(9月20日公開)とオリジナルのコンテンツとすぐに結びつけた理由は?
「限定された地域ですが、場内を明るめにして、小さな音量で『プリキュア』『ドラえもん』といったアニメーションを、〈ウィズキッズシアター〉という名前で上映しています。TOHOシネマズのママズクラブシアターのような感じですね。ただ、『通常上映でなければ観ない』という方も多いので、シネコンの競合間競争として〈ウィズキッズシアター〉の枠をフルタイムで設けることはクレバーではないと思っています。それに私たちの強みはイオンモールに劇場を併設しているところなので、ファミリーに特化した独自のコンテンツを持っておくことが重要だと判断しました」
――子どもの映画館シリーズの対象年齢は、『妖怪ウォッチ』といった作品よりも低いですよね?
「低いですね。4~5歳のお子さんもいっぱいいるんですけど、2~3歳の子がメインです。子どもの映画館シリーズを始めて、すぐにアンケートをとったところ、初めて映画館に来た子が多かった。そこで私たちのメッセージはしっかり伝わったという確信を得ました。いまは幼児向けと言っても、4~6歳がメインで、映画館デビューもその年頃が多いんです。それは3歳から料金が発生するという理由もあります(こどもの映画館シリーズは、2歳以上中学生以下500円)。私たちのミッションは映画鑑賞人口を増やしていくことで、映画館デビューの年齢を下げていくことが大事だと思いました。なので0歳もどんと来いという感じです」
――2月公開の『マジック・ドルフィン』はシリーズの3作目ですが、新たな工夫は?
「これまでの2本で学んだことをいかしました。どうやったら子どもが最後まで飽きずに楽しめるのか、アンケートをとって、『こういうものがあったらいいよね』という声がいかされています。今作は水族館の映像も楽しいですが、途中にクイズが入っていて、観客が声を出して一緒に答えるという参加型になっています。映像も、イルカにつけたカメラ(イルカメラ)など、水族館に行っても体験できない目線を観ることが出来るんです。実際の水族館とは、また別の楽しみ方をすることが出来ると思います。そして、何より観終わった後にパパ、ママと子どもが『あれよかったね』と会話が長く続くような内容を意識しました。入場者プレゼントの絵本も、そのことに一役買ってくれると思います」
――科学館の映像を観ているような感覚もありました。
「それはうれしいですね。このシリーズについて説明するとき、教育アプリを引き合いに出すことが多いんです。エンターテイメントが入り口だけど、観て学ぶことが出来る。しかも、『教育』というような堅い感じではなくて、興味や関心をつっついているだけなんです。子どもが成長していく過程を親も間近で味わえるという、自分で言うのもなんですけど、贅沢なものだと思っています」
――知人は3歳ぐらいの子どもに実相寺明雄監督の『ウルトラQ』を観せて、とても喜んで観ていた、と。子どもに刺激を与えたいという親御さんについてはどう思われますか?
「その気持ちもわかります。こどもの映画館シリーズもたくさんある選択肢の中のひとつとして用意したつもりです。それにすべての親子を対象として考えると、映画館デビューに限らなくても、もっと対象年齢の幅広い作品をつくればいいんです。でも、そこまでいくと僕らの仕事ではない。そういった作品は日本のプロのクリエイターたちがつくってくれますから、その人たちと一緒に面白い映画を提供していけたらいいんです。私たちの目的はまず映画に親しみをもってもらうこと。そして『この先、何十年も素晴らしい映画が待ってますよ』と伝えたい。その1本目を提供することは、シネコンの仕事だと思います。観て気に入ってくれて、このシリーズの次の作品に足を運んでもらえたらうれしいですし、卒業して『ポケモン』や『名探偵コナン』に入ってもらえてもうれしい。カッコつけて言うならば、そういう意味合いでやってます(笑)」
――最終的には、このシリーズが観る人にとって、どういうものになるのが理想ですか?
「30年続けて、このシリーズで映画館デビューした人が『オレはこれで映画館デビューしたんだ』と息子を連れてくる。そうなるとうれしいですね。その頃、僕はもう会社にいませんけど(笑)」


koganezawa takeyasu
77年群馬県生まれ。00年にワーナー・マイカル(現イオンエンターテイメント)に入社。
地方の劇場や新規劇場の総支配人や、本社マーケティング部を経て、
14年からイオンエンターテイメント プロモーション本部長に。
『れっしゃだいこうしん』シリーズ、『こども映画館シリーズ』などの映画作品の企画・上映に携わる。

マジック・ドルフィン
制作/ROBOT 配給/エレファントハウス (15/日本/45min)
2014年2/14~全国のイオンシネマで公開(一部劇場を除く)
©2015「マジックドルフィン」製作委員会
映画『マジックドルフィン』オフィシャルサイト