yasukawa yuka
86年奈良県生まれ。大阪美術専門学校で映像制作を学ぶ。短編映画『カノジョは大丈夫』がオムニバス企画“桃まつりpresentsうそ”の一本として上映された。『Dressing Up』は、主演の祷キララがCO2新人俳優賞を、TAMA NEW WAVEではグランプリと最優秀女優賞を受賞。14年には『激写!カジレナ熱愛中!』が公開された。
当時思っていたことを、精一杯出した
安川有果インタビュー[後編]※文中で映画の後半にふれている箇所がございます。
――主人公・育美の怪物性が、特殊メイクを用いて目に見えるカタチで描いているところは、思い切った描写だと思いました。
「自分は本来ああいうことをやらないので、結構、思い切りました(笑)。最初は影で恐怖をあおっていくとか、実物は見せないでおこうと思っていました。でも、この話自体が母の残した『人間じゃなくなるかもしれない』みたいな抽象的な言葉によって戸惑っていく娘の話。娘の中では、母がうまく想像できない。だから、目に見えて怪物というビジュアルの方が、伝わりやすいと思ったんです」
――企画の段階で戦略もあったとおっしゃっていましたが、様々な要素が入っているのは、「こういうこともできます」という意味あいもあったのですか?
「そういうつもりはなかったです。その都度、テーマを最大限に見せられる方法はなんだろうと考えた末に、ああいう表現になりました」
――ある意味では、安川さんの趣味の広さが出ている。
「そうだと思います。その次に撮った『激写!カレジナ熱愛中』はコメディですし(笑)。なので、2本観てくださった方からは、『え? 同じ監督なの?』っていう反応がありました。好きなものがたくさんあるから、そこまでジャンルにこだわりがなくて、その都度テーマにあった描写を追求するだけなんです」
――ご自身でも、職人気質っぽいと思いますか?
「いや、職人に対して憧れがあるだけなんです」
――作家ではなく?
「いや、両方やりたいんです。だから、欲張りで(笑)。そんな器用じゃないのに、職人に憧れちゃって、そういうことをするから、『引き裂かれたような作品』と言われてしまう。でも、いまのところ、テーマを追求する部分と、楽しんでもらおうとする部分、その両方が見える映画になっていると言われます。その迷いが作家性みたいになったら、どうなんだろうと思いますけど(笑)」
――(笑)。理想の仕事のスタンスを持っている監督は誰ですか?
「商業映画も撮りつつ、作家性もある監督には、どういう方がいますか?」
――増村保造監督は、そうだと思います。
「ああ、確かに。大好きです。いまの監督だとどうですか?」
――中村義洋監督だったり。
「なるほど。いま思い浮かんだのは、深川(栄洋)監督です。どんなジャンルを撮っても、全部面白い。しかも、商業的に妥協している感じなくて。その中でやれることを最大限に面白くやっているという感じがします。そういう意味では、憧れの監督です」
――最後の小屋のシーンは、現実から違うところへ舞台が移ります。ああいった場面が、映画として成立すると確信が持てた理由は?
「それはいままで映画を観てきて、『全然、やっていいだろう』という感じだったんです。それに撮れる機会なんだからやろうと思いました。『現実の人間社会の中だけで解決することなのかな、この葛藤は。これぐらいのことが起きないと解決しないだろう』と思ったので、ああいう部分も出しました」
――具体的にインスパイアされた映画はありましたか?
「それはないですね。後から言われて気づいたのは、『お引越し』(相米慎二監督)」
――ああ、なるほどね。
「意識はしてなかったですけど、言われてみればという感じで。主人公は森を抜けていくんです」
――そういう意味では、『ユキとニナ』(諏訪敦彦監督、イポリット・ジラルド監督)もありますね。
「そうですね。心の何か、折り合いのつかなさが森へ向かうみたいなところがあるのかもしれない。森に行くのは基本だろ、と(笑)」
――そういう映画の記憶みたいなものが、無意識に入っている?
「意識と無意識の半々ぐらいなんだと思います。でも、より意識していかないといけないですよね」
――3年前の作品ですが、「いまだったら」という気持ちはありますか?
「それはもちろんあるんですけど。でも、当時思っていたことを精一杯出したものなので、それをいまどうこうしたいとは思わない。それはそれでそのまま出したいんです。……と言いながらも、再編集も少ししているんですけど(笑)。でも、やっぱり、映画はそのときに思っていたことが定着するものだと思うので。3年前のことなので、作品について聞かれると、しどろもどろにもなります。だけど、それでも言葉が出てくるのは、この映画で描いたテーマが自分の中ですごく考えていたことだからだと思うんです。それはこれからも引きずっていくと思います」
――そういう意味では、実質的な処女作ですね。
「そうですね。本当に原点的なところがあるし、なんやかんやで振り返ることになる作品だと思います。これからどういう作品をつくるとしても」
[text]浅川達也
Dressing Up ドレッシングアップ
監督・脚本・編集/安川有果 撮影/四宮秀俊
照明/大嶋龍輔 録音・音楽/松野泉
出演/祷キララ 鈴木卓爾 佐藤歌恋 渡辺朋弥
平原夕馨 デカルコ・マリィ ほか
制作・配給/ドレッシング・アップ(12/日本/68min)
8/15~シアター・イメージフォーラムにてレイトショー公開
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映画『Dressing Up ドレッシングアップ』オフィシャルサイト