「あ、これはいまの私だ」
[監督]藤村明世× 久保陽香インタビュー〈後編〉


久保「翔くん(倉沢涼央)の直角マンのネタは、『もっと面白いのないの?』と言ってましたね」
藤村「ひどいですね(笑)」
久保「監督、Sだなと(笑)。倉沢さんに『いろいろ用意しておいてください』と言って」
藤村「そうです。ほかにも絶妙につまらないネタをつくってきてもらいました(笑)」
久保「それも、何回もやってましたね(笑)」
藤村「12テイクぐらい」
久保「わたしも泣き屋として初めて涙を流すシーンの撮影のときに、『久保さん、涙を3パターンお願いします』と言われて。『どういうことですか?』と聞いたら、『涙をためるパターンとぽろぽろっといくパターン、あとツーとつたって落ちるパターンをお願いします』『え?』と思って(笑)」
藤村「全然覚えてないです(笑)」
久保「いつものケロっとした感じで(笑)」
藤村「失礼ですよね(笑)。久保さんはその通りにやってくださったんです」
久保「監督はちゃんと芝居に集中できる環境を整えてくれるんです。その撮影のときは、少人数でやりましょう、と言ってくれました」
――そういったことの積み重ねで、おふたりに信頼関係ができていたんですね。
久保「最初から一緒につくっていきましょうという空気があったので、なんとか応えないとという気持ちでした。時間も限られているし、集中して短い時間の中でやろうと。それができたのも、やっぱし監督の中に画があるんです。わたしはその画に近づけるというか、勝手に寄り添っていたところがあったと思います。監督の思い描いていることを、なんとか再現したい。特にラストシーンは脚本を読んだときに、すごく印象に残ったし、大事だなと。自分もここで持っていきたいという思いはありました」
藤村「うれしい」
――現場での監督は、どのような雰囲気なのですか?
久保「いまとは別人のようですよ(笑)」
――それは?
久保「ベテランのスタッフさんでも、ひるむことなく。めちゃめちゃ男前でした(笑)。すごくかっこよくて、そのときに『この人についていこう』と思いました(笑)」
藤村「うれしい、ありがたい(笑)」

[text]浅川達也

kubo haruka
87年兵庫県生まれ。映画やドラマ、CM、舞台など幅広く活躍中。近作に『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』(17・大根仁監督)『神さまの轍 Checkpoint of the life』(18・作道雄監督)、『たまゆら』(18・土田ひろかず監督)などがある。

fujimura akiyo
90年東京都生まれ。『彼は月へ行った』が、第36回ぴあフィルムフェスティバル、第六回下北沢映画祭などに入選し、評価される。商業映画の制作部や助監督を経て、『見栄を張る』で長編映画初監督。現在、是枝裕和監督製作総指揮のオムニバス映画『十年 日本(仮)』の一篇を制作中。


見栄を張る
監督・脚本/藤村明世 出演/久保陽香 岡田篤哉 似鳥美貴 ほか 配給/太秦(17/日本/93min)
周囲には女優として見栄を張りながらも、鳴かず飛ばずな毎日を過ごす絵梨子。ある日、姉の訃報を受け帰郷した絵梨子は、姉が葬儀で参列者の涙を誘う「泣き屋」の仕事をしていたことを知る。その仕事の真の役割を知らぬまま、絵梨子は簡単にできると思い、「泣き屋」を始めてみるのだが……。
3/24~渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
©Akiyo Fujimura
映画『見栄を張る』オフィシャルサイト