第73回カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション2020にも選出された
深田晃司監督最新作『本気のしるし 劇場版』。
本作のヒロイン、葉山浮世を演じたのが土村芳。
薄幸そうな空気をまとっていたかと思えば、
ファム・ファタールのような危うさを醸し出し、主人公・辻を翻弄する。
土村は浮世という役にどうアプローチしたのか?。


土村芳さん ――今作への出演はオーディションで決まったのですか?
「そうです」
――土村さんになった決め手について、深田監督から聞きましたか?
「監督が取材でよく言ってくださっているのは、『浮世は一歩間違えると、かけひき上手の女性に見えてしまう。土村さんはそうではないように見えた』と」
――浮世という役について、どう思われましたか? 森崎ウィンさんはご自身が演じた辻という役に、まったく共感できなかったそうです。
「共感は難しいですね(笑)。浮世さんはわたしから、とてもかけ離れている存在なので。映画を観ている人も、浮世さんの突飛な行動や、ウソを見て、『なんだ、この女性は?』となると思うんです。でも、原作で、辻さんが浮世さんの友人に会いに行く場面があって」
――映画では阿部純子さんが演じた役ですね。
「そうです。その場面を読んだときに、はっとしたんです。それまで浮世さんに対して否定的な見方をしていたのが、少し変わるというか、拓けました。浮世さんの行動の裏にあるものが見えてきて、演じる上で土台になったと思います。といっても、共感まではいかないんですけど(笑)。ただ、どの作品の役でも、自分が一番の味方でいようと思っているのですが、今回もそう思えるきっかけになりました」

目指すべきところが、演じながら見えてきた
――浮世という役に対して、どのようにアプローチを?
「わたしはどの役でも、まず最初にその人の軸を探してしまうんです。でも、浮世さんは軸が見えづらくて、ぐらついている。だからこそ、浮世さんなのだろうな、と思えました。すごく自己評価の低い女性なのですが、辻さんと出会うことで変化していく。後半の浮世の視界が晴れていくような、目指すべきところが、演じながらも見えてきたところがありました」

土村芳さん ――深田さんの演出で印象的だったのは?
「わたしが『ここはどういう風に言ったらいいのかな?』と迷っていて、役を見失いそうになったシーンがあったんです。監督に相談したら、『自分が演じる役を100パーセント理解することが、必ずしもいいとは限らないと思う』とおっしゃって。確かに自分が普段生活していても、自分で自分のことがわからなくなる瞬間があるな、と思いました(笑)。役にもよりますが、いままでは役について自分が理解できるだけ、理解した方がいいはずと思っていたんです。でも、浮世さんを演じるにあたっては、自分の理解できることだけで浮世さんを埋めていくのではなくて、言葉にはできない、感覚的な余白みたいなものを残していいんじゃないか、と初めて思えました。そこから浮世さんに対してのアプローチが自分の中で変わりました」
――ドラマ版と劇場版、両方ご覧になって感じたことはありましたか?
「ドラマで1話ずつ観るのと、映画になって最初から最後まで1本として観るのでは、展開のスピードの受け取り方が違ったような気がしました。劇場という空間の中で、あの世界観に包まれると、緊張感や、作品の緩急が強調されて伝わってきたところがありました。ドラマを観ていてくださった方も、もう一回新鮮な気持ちで観ていただくことができるんじゃないかと思います」

2020.10.6
[photo]久田路 [styling]百瀬友花梨 [hair&make]榎戸恵美 [text]浅川達也
[衣裳協力]コート¥45000/PHABLIC×KAZUI、イヤリング¥26000、バングル¥37000/ともにSIRI SIRI


tsuchimura kaho
90年岩手県生まれ。13年、林海象監督『彌勒 MIROKU』で長編映画初主演。以降、映画、テレビドラマ、舞台などで活躍。主な出演作に『連続テレビ小説 べっぴんさん』(16)、映画『去年の冬、きみと別れ』(18)など。近作に『3年A組 -今から皆さんは、人質です-』(19・日本テレビ)、『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』(19・NHK)、『空母いぶき』(19)、『MOTHER マザー』(20)、『呪怨:呪いの家』(20・Netflix)などがある。


本気のしるし 劇場版
監督/深田晃司 原作/星里もちる
出演/森崎ウィン 土村芳 宇野祥平 石橋けい 福永朱梨 忍成修吾 北村有起哉 ほか
配給/ラビットハウス (20/日本/228min) 中小商社に勤める会社員・辻一路。恋人関係のような女性もいるが、本気の恋をしたことがなかった。ある日、彼はコンビニで不思議な雰囲気の女性・葉山浮世と知り合う。しかし、彼女と関わったばかりに次々とトラブルに巻き込まれていく……。10/9~全国順次公開 ©星里もちる・小学館/メ~テレ
『本気のしるし 劇場版』オフィシャルサイト