辻凪子さん

 


――木村さんは大西さんの演出をどう感じましたか?
木村「曖昧なものというか、存在がハッキリしていないものを撮りたいと言っていましたね。演出も、明確にこうしてくださいというよりは、抽象的なニュアンスで伝えられることが多かったです」
大西「あまりこと細かくお伝えしすぎない方がいいかなと思っていました。特に木村さんに関しては、ほぼ言ってないです」
――先ほどの目の色のお話にしても、感覚的なところでOKを出される?
大西「そうですね。『これができていればOK』みたいな、チェックポイント的なものはなかったです。自分でも感覚的だなと思います。例えば序盤の内田春菊さん演じる叔母が家から出て行くときに、『明日、歯医者あるから、昼過ぎに来るわ』と言うシーン。実はおじいちゃんの家に行くのが嫌でウソをついているんです。春菊さんにはその意図を伝えて、本番で僕がそう聞こえたらOKみたいな(笑)。基本的にはそんな感じでしたね」
――木村さんは、大西さんのOKの基準はわかりましたか?
木村「監督がOKならOKかなと。そこは疑ってはいなかったです(笑)」
――すごく丁寧に演出をされていると感じたところもあります。
大西「木村さんからは脚本の段階である程度イメージができていると言っていただきました」
木村「そうですね。全然アドリブはなくて、ほぼ脚本通りです」
大西「僕は人生で丁寧と言われたことがないんです(笑)。雑だと言われることはあるんですけど。だから、映画制作でそう言われて驚いています。ただ、僕は人の感情の動きについては嘘をつきたくないというのがあります。だから、脚本を書くときも出来事優先でこういうことを起こしたいとか、そういうつくり方はしたくないんです」

木村知貴さん×大西諒さん

――今後、監督としてどういった方向性でやっていきたいですか?
大西「監督としてこうなりたいは全然ないです。次につくりたい映画はあるので、その制作費を自分で出さないでいいようになればとは思いますけど(笑)」
――では、映画制作は仕事とも違う感覚ですか?
大西「そうですね。仕事と思ってはいないです。むしろ仕事より大事です(笑)」
――木村さんが大西さんに期待することは?
木村「多分放っておいても、自分の撮りたいもの撮っていくんだろうなと思います。この調子で(笑)」
大西「(笑)」
木村「まずは『はこぶね』を、みなさんに観てもらうところからですね」

2023.8.29
[photo]久田路 [text]浅川達也


辻凪子さん

kimura tomoki
78年秋田県生まれ。大学卒業後、俳優として活動を開始。16年、長編初主演作品『トータスの旅』でTAMA NEW WAVEベスト男優賞、田辺・弁慶映画祭男優賞を受賞。23年は『ちひろさん』『SEE HEAR LOVE ~見えなくても聞こえなくても愛してる~』『Love Will Tear Us Apart』が公開。

oonishi ryo
89年兵庫県出身。映画美学校フィクションコース修了。IT企業の営業から映画配給会社への転職を模索して映画関連のワークショップに参加した際、制作に魅力を感じて30歳で映画美学校に入学。映画制作未経験で一から学び、在学中に複数の短編作品を制作。本作は卒業後に制作した初長編作。


はこぶね
監督・脚本/大西諒 出演/木村知貴 高見こころ 外波山文明 内田春菊 五十嵐美紀 ほか
配給/空架 soraca film (22/日本/99min)
事故で視力を失った西村芳則は、小さな港町で、ときに伯母に面倒を見てもらいながら生活している。西村の同級生の大畑は、東京で役者をしながら、理想と現実の狭間で憂鬱なときを過ごしていた。ある日、西村は大畑と偶然再会し……。9/1、9/2@シネ•リーブル梅田、9/9〜ポレポレ東中野にて公開。その後全国順次公開
©︎ 2022 空架 -soraca- film

映画『はこぶね』オフィシャルサイト

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