山下諒さん×二田絢乃さん×さいとうなりさん×宮坂一輝監督



「君」という言葉の意味が変わるラスト
───宮坂さんは、どのような演出スタイルなのですか?

山下さん 山下「宮坂さんはキャラクターの状況を整理して伝えてくれるんです。『このシーンに至るまでに、こういうことがあって、こうなりました』と。『怒るように言ってください』『悲しく言ってください』といった直接的な言葉ではないです」
──そういうことは役者さんも演じるときに自分なりに整理して臨むわけですよね。
山下「そうですね。でも、こっち側が整理できないまま現場に入ってしまうこともあるし、そういうことをちゃんと見てくれていて、『あなたはこうです』と言い聞かせられる感じ(笑)」
宮坂「(笑)」
二田「役者がいまからこのシーンやるぞってなるときって、自分の主観が大きくなりがちで、結構危ういというか難しいんです。『こう見られたい』『こういう芝居したい』というエゴが出ると、人間じゃなくなってしまう。宮坂さんはその前に一回、役者が客観視するために、たとえですけど、注射打ってくれるみたいな(笑)」
宮坂「(笑)」

二田さん 二田「『ああ、なるほど。そっか、あたしいまこう(視界が狭く)なり過ぎていたわ』みたいな。同じ視点に立ってくれていたんだなといま話を聞いていて思いました」
──さいとうさんは?
さいとう「役者は個々で役を膨らませてからクランクインします。現場で、相手役の人と方向性を確かめられることはいいと思う一方で、個々で何をやってきたかをオープンにすることは一概にいいとも言いづらい。でも今回、俳優ではない、中立の立場である監督が『いまから右に行きます。どう行くかは任せますけど、右に行きます』ということをおっしゃってくださったので、その場の空気に合った、エゴが入っていないナチュラルな会話になったんだと思います。お互いのペースを保ったまま、たまたま右に行ったらOKという感じが撮れたらいいという空気にしてくれるから、私もすごく助かったし、押し付けないところはさすがだなと思いました」
──最後のシーンは、見る人によっていろいろな解釈ができますね。
宮坂「そうですね。実際、観る人によって見方はさまざまでした。最後にふたりが何をするかが一番大事だと思っていて、あのカットにメッセージを込めました。最後、(山下演じる)大樹があることをして、すぐタイトルが出ます。『温帯の君へ』の『君』は、劇中では恋人とか大切な人を意味していたと思うんですけど、あの瞬間に『君』という言葉の意味が変わるようにしたかったんです。ちょっとそこまで伝わるかはわかりませんが……」

さいとうさん ──インディペンデント映画は、予算の問題でどうしても無理をしがちです。本作はそうではなかったようですね。
山下「撮影中、役者陣は普通に睡眠時間が取れていました。スタッフの方々はわからないですけど」
宮坂「スタッフも休みはとれていました。どっちかというと撮影部は自分たちで飲みに行って自爆してます(笑)」
さいとう「愛すべき……(笑)」
──そこは大事に?
宮坂「結局それが一番効率的だし、作品のクオリティに繋がるとわかっていました。撮休がないと俳優さんにとって負担になるのはもちろんですが、自分もないとつらいので。疲れると集中が切れてくる。現場全員ほぼ同世代で、限界の感覚とか、ある程度同じだったんです。だからみんな一緒に休んで、みんなで撮ろうとなれたのかなと。あとは俳優さんにちょっとでも無理をさせてるなと感じると自分が嫌になるんです。『大丈夫です』と言われても、全然大丈夫じゃないとわかるので。人にもよりますけど、役者さんって『無理です』とは言わないです。言えないというか。監督と俳優って、上下関係がどうしても生まれてしまう。それで無理が溜まって爆発するのは僕にとって最悪なんです。だから、絶対無理が起きないような状況をつくろうと思いました」
──そのためにテイクなどで妥協することはなく?
宮坂「妥協してない……です(笑)。でも、優先度はあったと思います。映画はほかの芸術と違ってひとりのこだわりだけですべてをつくり上げることはできない。なので、このカットは絶対必要、このカットは最低撮れなくても繋がるとかというのを最初に全部書いておいて、優先度を付けました。もうあと数カットしか撮れませんというときは、じゃあこのカットとこのカットを確実に撮ろうみたいな計算はしていたと思います」
──そのつくり方は宮坂さんの性格的なところもありますか?
宮坂「僕はノリで映画をつくれないタイプなんです。勢いでつくりたかったんですけど(笑)。だから、自分の思ってることをちゃんと脚本に100%落としこんで、突き詰めることで僕の良さが出るんじゃないかと思ったんです。本当に『なんで映画つくってるんだ?』というぐらいロジックの人間だと言われます。でも、だからこそ『温帯の君へ』のような映画が撮れたんじゃないかと思っています」

2025.5.20
[photo]久田路 [text]浅川達也


yamashita ryo
99年大阪府生まれ。22年から俳優として活動。『青色のピンク』、本作と主演作が2年連続で田辺・弁慶映画祭にノミネート。本作が長編映画初主演。舞台やCMなどにも出演。

nita hirono
96年東京都生まれ。主演作『優しさのすべて』(22)が第22回TAMA NEW WAVE コンペティション部門で特別賞を受賞。そのほかの作品に『3653の旅』(22)、『ルノワール』(25)がある。

saito nari
94年東京都生まれ。主な出演作に、映画『としまえん』(19)、『夏、至るころ』(20)、『福田村事件』(23)、ドラマ『恋愛ドラマな恋がしたい』シーズン3(19)、『君と世界が終わる日に』Season3(22)などがある。

miyasaka kazuki
99年埼玉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科修士課程卒。初長編監督作 『(Instrumental)』が第21回TAMA NEW WAVEコンペティション部門にノミネートされ、22年に劇場公開された。本作が長編二作目。


温帯の君へ
監督・脚本・編集/宮坂一輝 出演/山下諒 二田絢乃 さいとうなり 関口滉人 吉田晴登 ほか (24/日本/75min)
大樹と翠は同じ大学に通う恋人同士。ある日二人は気候変動をテーマとした現代アート展を訪れるが、感じ方はまるで正反対。倦怠期に差し掛かっていた二人の関係は、この日を境に思わぬ方向へと転がり始める……。 5/31~6/5@テアトル新宿、6/20テアトル梅田にて上映
© 映画『温帯の君へ』制作チーム / TBX Production

映画『温帯の君へ』オフィシャルサイト

山下諒×二田絢乃×さいとうなり×宮坂一輝 前篇へ◁