渋川清彦×佐向大

 


大勢の子役たちとの現場
──先ほど校長、教頭は映画ではあまり描かれないと。役づくりは?
渋川「資料はもらって読んでるし、基本的なことは理解してますけど、オレはどの役に対しても、そこまで役づくりはしないというか、できない。絶対にやらないということでもないです。時間とお金を与えてくれて、例えば教頭先生の近くに1年ついてとかできるなら最高ですけど、日本映画では現実的にないですから。たとえばレスラーの役だったら体を多少でかくしたりはすると思いますけど」
佐向「『箱男』での役づくりは?」
渋川「してないですよ(笑)。投石機って言うんですか? あれは練習しましたけど」
──子供たちの演技も素晴らしかったです。ほとんどの子が事務所に入っているそうですが、過剰な子役演技をしている子はいないですね。
渋川「そういうところを削っていった感じはありますよね」
佐向「そうですね、強めの子は。撮影前にリハをやったんです。渋川さんにも来ていただいて、何回かやっていく中で、もうちょっと抑えて、ということはありました。でも、いまの子供たちって、そんな昔の子役みたいな……」
渋川「ベタなことをしないですよね」
佐向「オーディションで自然な芝居をする子を選んでいるのもあるんですけど、日常の延長線上で演技している子が多いので、いわゆる子役演技を無理やり直したことはなかったです。なかなかエンジンがかからないとか、集中力が途切れるとかはありましたけど、役をちゃんと理解してくれている」
渋川「いまの子は賢いというか、器用ですよね」
佐向「クラスみたいな雰囲気を自分たちでつくっていたので」
──先生役ということで、俳優の先輩として導く立場みたいなところを意識することはあるんですか?
渋川「それはないですね。ただ、なんとなくコミュニケーションをとっておこうと思って、出身地だったり、最寄駅だったりを聞いて、ちょっと知っていることを言ったりは何回かしましたけど、それは役のためではないですね」
──主演としての立場で。
渋川「そうですね。だから現場でやろうと思っていたけど、結局できなかったのは、全員の名前を覚えること。途中で無理って思いましたね、もういいいやって」
佐向「ちょっと失敗したなと思ったのが本名と役名を似てる名前にしてしまって」
渋川「似てましたね」
佐向「似てる方が覚えやすいのかなと思ったんですけど、逆に本名なのか、役名なのか、こんがらがって分からなくなっちゃったんですね。助監督の玉澤(恭平)くんはちゃんと覚えていたんですけど(笑)」
渋川「ああ、そう。反省も後悔もしてます(笑)」
佐向「中山教頭の娘が未散(ミチル)という役名なんですけど、礼央奈役の子の本名が櫛田遙流(ミチル)なんですよ。ミチルちゃんって言ったら、どっちの子のことを言っているのかわからなくなってきちゃって。あと変わった名前の子も多かったから、ぱっと見なんて読むのかわからない」
渋川「そうですよね」

佐向さん ──パブリシストから監督になるというのはあまり例がないですね。出来上がったときのパッケージとかって考えるところがあります。
佐向「僕はキャッチコピーに関してはこれを使うんだ?と思ってびっくりしましたね」
渋川「『先生や大人がこうしなさいって言うことは全部まちがってる』?」
佐向「はい」
渋川「オレ、これはすごい好きです」
佐向「でも、やっぱりつくり手としては出したくない言葉だと思うんです。ネタバレになっちゃうというか、隠したいんですけど、今回予告とか観ていても全部ネタバレしていて、いいのかなと思ってドキドキしています」
渋川「初号のときに『中山教頭の人生テスト』というタイトルに対しても、どうなんだろう?と言ったじゃないですか」
佐向「そうですね」
渋川「最初の『校長試験』よりはいいですけど。でも、さっきも話していて、『ああ、『アノーラ』みたいなもんだ』と」
佐向「なんですか(笑)?」
渋川「『中山教頭』『アノーラ』、一緒だって(笑)」
佐向「ああ、そうか(笑)」
渋川「でも、日本語になるとちょっとかっこ悪いというか、変に感じる」
佐向「それは『人生テスト』が付いてるからじゃないですか」
渋川「でも、『アノーラ』は何かバッチリ来る」
佐向「そうですね。『春彦』だったら」
渋川「微妙だな(笑)」
佐向「映画観ても、中山晴彦という名前だということは分かりませんしね(笑)」
渋川「だから、いまは『中山教頭の人生テスト』でしっくりきはじめているんです」
佐向「タイトルは、配給のライツキューブさん含め、スタッフ、各所、なにがいいのかものすごく考えてくれました。こんな考えたことなかったです」

2025.6.19
[photo]久田路 [text]浅川達也


shibukawa kiyohiko
74年群馬県渋川市生まれ。98年『ポルノスター』で映画デビュー。16年『お盆の弟』『アノレ』で第37回ヨコハマ映画祭主演男優賞受賞。19年、第32回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞 助演男優賞受賞。20年『半世界』で第34回高崎映画祭最優秀助演男優賞受賞。近作に『夜明けのすべて』『あるいは、ユートピア』『箱男』(すべて24)、『少年と犬』(25)など。公開待機作に『アフター・ザ・クエイク』(25年10月3日公開)、『ブルーボーイ事件(25年秋公開)、『次元を超える RANSCENDING DIMENSIONS』(25年公開予定)がある。

sako dai
71年神奈川県生まれ。自主制作のロードムービー『まだ楽園』(06)が各方面から絶賛され劇場公開。10年に『ランニング・オン・エンプティ』で商業監督デビュー。同年、芥川賞作家・玄侑宗久原作『アブラクサスの祭』(加藤直樹監督)の脚本を手掛ける。18年には大杉漣最後の主演作『教誨師』の監督・脚本・原案を務め、大杉に日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞をもたらした。22年に公開した異端のロードムービー『夜を走る』も高く評価された。


中山教頭の人生テスト
監督・脚本/佐向大 出演/渋川清彦 ほか 配給/ライツキューブ (25/日本/125min)
山梨県のとある小学校。教員生活30年を迎えた教頭の中山晴彦。真面目な性格で、誰に対しても物腰柔らかく接する反面、流されやすくどうにも頼りない。彼は妻に先立たれた彼は、中学2年生の娘との将来のために校長への昇進を目指しているものの、日々の忙しさから受験勉強はうまく進まない。そんなある日、晴彦は5年1組の臨時担任を務めることに。子供たちと真正面から向き合うことで、問題の数々が浮き彫りになっていく……。6/20~全国公開
© 2025映画『中山教頭の人生テスト』製作委員会

映画『中山教頭の人生テスト』オフィシャルサイト

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