『水江未来特集上映 ワンダー・フル!!』

[共同配給]マコトヤ代表 日下部圭子さんへのメールインタビュー〈全文〉


『水江未来特集上映 ワンダー・フル!!』
[共同配給]マコトヤ代表 日下部圭子さんへの
メールインタビュー

Q:水江さんのアニメーションは、形や色の変化を描いていて、明確なストーリーがあるわけではない。かなり特殊な作品だと思います。日下部さんを惹きつけた水江作品の、もしくは水江さんという作家の魅力はどこだったのでしょうか?

A:
音楽とともにつくる映像リズムがとてもユニークで、これまでにない感覚を呼び覚まされたとでも言いましょうか。それも楽しい感覚です。
しかも呼び覚まされる過程も心地よい。赤ちゃんをあやしているような、おばあさんに甘えてお小遣いをもらっているような、懐かしさと同時に新しいものがなだれ込んでくる。
〈映画の見方〉も面白い。本来的に映画を見るという行為は形としてまずは受け身です。衝撃を受けたり心を動かされたりといった風に。水江さんの作品はこうした従来の映像作品とは少し楽しみ方が異なると思います。スクリーンと見ている側が一緒に進行する。ですから、ある作品が見る人にとってそれぞれの作品になる。しかも「観客が参加する事によって完成する」などという大仰なものでないところがいいです。水江作品は、見る人の感覚に寄り添う。時間軸による物語をもたせない「ノンナラティブ・ムービー」ゆえなのでしょう。

Q:共同配給を手がけることになったいきさつをお教えください。また本作を含め、配給作品を選定する際、日下部さんが常にこだわっているポイントがあれば、お教えください。

A:
弊社配給で昨年公開した、2011年ベネチア国際映画祭グランプリを受賞した、Cocco主演・塚本晋也監督『KOTOKO』。水江さんの『MODERN No.2』もベネチアの同じオリゾンティ部門に正式出品されていました。
『MODERN No.2』に引き続いて『KOTOKO』が上映され、記者会見も同様の進行でした。まず作品を拝見して、なんだか変わってるなあ、でもいいなあと思っていたら、記者会見に現れた水江監督は羽織袴の若者。風貌も、なんだか変わってるけれどなあ、と。
(『MODERN No.2』はブラックな要素がかなり濃いものの見ている分には楽しいわけで、引き続いての『KOTOKO』の衝撃というすさまじい枠だったのを思いだします)。

帰国後、水江さんが「*月*日が誕生日の人いませんか?』とtweetしているのを見かけました。
「気にすることがなければただ過ぎてしまう毎日。それはあなたにとってはいつもと変わらない1日でも、ある人にとっては特別な1日なのかもしれません。みなさんの特別な日を作品に組み込むことで、“特別で平凡な毎日”を1年間を通じてお届け」する、「WONDER 365 ANIMATION PROJECT」
でした。
このプロジェクトは視聴者参加型のアニメーションという新しい試みでもあります。「あなたの誕生日に、あなたの名前をクレジットすることで、プロジェクトに無料で参加してい­ただけます。1年間毎日、手描きの絵が変形する短いアニメーションを公開します。発表されたアニメー­ションは、翌日に公開するアニメーションに動きが繋がり、1年後、365秒間の常に変形し続ける作品として完成します」という、なんだかいいじゃないですか?
なので、当時ドキュメンタリー『アニメ師・杉井ギサブロー』を配給中だった縁からアニメーション映画監督の杉井ギサブロー氏にお声がけし、昨年亡くなりましたが父にも参加を呼びかけました。もちろん私の名前を入れていただきました。

そのうちまたしてもTwitter上で水江さんが「WONDERは夏公開、地方はどこの劇場かなあ」などとつぶやいているのを目にしました。で、「どこでやるの?」とか伺っているうちに、水江未来という面白い作家を劇場公開という形できちんと紹介する事となりました。
弊社単独配給という話もあったのですが、CALFという肩書でこれまで自分たちの作品を世に問うている実績もあるからには共同配給のほうがよいのではないかと話して、現在にいたっています。
宣伝もCALFさんがやってくれるので、弊社は劇場窓口と宣伝アドバイスと公式サイト制作と『KOTOKO』で劇場に対する実績もあるDCP(デジタルシネマ・パッケージ)制作を担当しています。

基本的にお仕事をお断りすることはありませんが、作品にとっていいかどうかは考えます。配給も宣伝もコントロールする人間のキャラクターが活きてしまいます。どなたも同じだと思いますが、一店舗(スクリーン)に一商品(作品)しか置けないのに、まったくダメよねえなんて思いながらの上映依頼はなかなかできないと信じたいです。

Q:短編アニメーションはその名の通り時間が短いこともあり、劇場公開はなかなか難しいジャンルだと思います。その中で今回上映を行うことに対しての思い、そして今後の短編アニメーション公開に関する展望などがあればぜひお教えください。

A:
実写にしろアニメーションにしろ短編はどうやって儲けているのでしょうね? 実写では複数の監督たちが作品を持ち寄って、関わったスタッフとキャストが一丸となって集客をするというスタイル、一種のお祭りのような形で劇場公開できる機会がでてきていますね。
一方アニメーションはひとりでの作業が多く独自性も半端なく、しかも内容は自由自在です。実写の真似をして公開することはかなり難しいのかなあと思います。
水江さんは作家としてのキャラクターがしっかりしているので監督作品特集が組めます、今回は14作品をひとつの作品として上映。
おそらく短編アニメーションはひとり作業が多いと思うので、『水江未来監督作品 ワンダー・フル!!』を第一弾として、新しい作家発掘シリーズを続けていきたいと思っています。

イタリアで3~4年前にはじまった短編映画祭にアドバイスし、今年はプログラマーとして新海誠監督特集を組んだりしました。また、昨年はじまったアニメーション映画祭ではで杉井ギサブロー特集(イタリアをはじめとするヨーロッパでの人気はすごいです)を実現させたり、来年の短編映画祭の作品交渉にそろそろ入ろうと思っています。
という具合に、短編もアニメーションもいままさに勉強中ですが、短編アニメーションはナラティブにとらわれる必要がない、実験映画と同じ土俵にもたてるということです。革新的なものがたくさんありそうでワクワクしています。
商品がたくさんあれば流通経路を開きやすくなります。短編アニメーションを流通させたい方は日下部が連絡を待っています。

 

[翌日にいただいた追加回答]
いま『ワンダー・フル!!』のマスターのサウンドチェックをして戻ったところです。ほんの僅かな時間でしたが、しばらくぶりに大きなスクリーンで、水江作品が蘇ったので、少し追加させてください。

水江作品の最大の魅力は楽しいって事。
「見ていて楽しい」。
変な英語ですが、I am feeling pretty nice while watching、I feel でなく、見ている間中ずっと楽しい気分がいろいろ途切れずに続く。
これはもう、映像マリファナ(トリップ映像じゃない)。

水江さんに興味を惹かれたきっかけは、ベネチアではじめて見たときに「変だ!」と感じて帰国後、「一枚一枚手描き」している事を知った途端。

配給作品については、先にも書いたように「作品に配給を選ばせる」事が本質だと思っていますが、結果としての日下部配給作品の特質は、「こだわり」の有無だと思います。
配給宣伝費をいただいて「とりあえず劇場公開とDVD、テレビ、ネット、海外に販売してください。少しでもお金に変えてください」と放り出していただくのも大歓迎です。いいですけれど、それだけだと淋しいですね。

 


ピクトアップ#86の「Pict Viking」には、編集を加えた日下部さんのインタビューテキストを掲載しています!