芸人、かく語りき
vol.33 ナイツ 前編

105号の「芸人、かく語りき 」には3年ぶりにナイツの塙宣之さんと土屋伸之さんが登場。誌面と連動したこの記事では、歌ネタから垣間見える、ふたりの絶妙なバランスを探ってみます。

   
   

knights
00年、コンビ結成。『0655』『2355』(ともにEテレ)、『お笑い演芸館』(BS朝日)などに出演中。
hanawa nobuyuki (左)
78年千葉県生まれ。漫才協会副会長。
tsuchiya nobuyuki(右)
78年東京都生まれ。漫才協会理事。
所属事務所マセキ芸能社のHP

ふたりのバランスをとるための“歌うシリーズ”ネタ

ナイツ


──2015年の独演会で披露された、土屋さんが「俺ら東京さ行ぐだ」を歌い続けるネタは話題になりました。今回の独演会『この山吹色の下着』では新たにテレサ・テンさんの「別れの予感」を歌い続けるネタが登場しましたね。
塙 はい。歌うシリーズ。
──あれは、いったいどういうコンセプトでつくられたネタなんでしょうか……?
塙 まず、「CA物語」っていうキャビンアテンダントのネタを3年前(2014年)につくったんですよ。飛行機に乗ってると、何回も「シートベルトを締めてください」とか言うじゃないですか。僕、いつもあれに心の中でツッコんでたんです。「シートベルトの話、何回言うんだよ!」とか、「寝てるときに飲み物持ってきたら起こせよ、変なシール貼ってんじゃねえよ」とか。そう考えたら、日常にあることぜんぶがボケに見えてきて、それでつくったネタだった。
土屋 僕が延々、CAとして搭乗の案内をするネタですね。
塙 それをやってみたら、これ歌でもできるんじゃないかな? と思って歌にツッコミを入れるシリーズにしたんです。だから、歌じゃなくたっていいんです。本当に日常の、ふつうのことがボケに見える題材をいまも探しています。
──土屋さんはあのネタのとき、どんな気持ちで歌ってらっしゃるんでしょう?
塙 それ、前も聞かれたね。
土屋 あのネタを観ると、みなさん同じ疑問に行き着くみたいですね。
──観ていると、土屋さんは心臓が強いな、という思いがどうしても……。
土屋 (平然と)強いもなにも、テレサ・テンさんの曲を歌っているだけですからね。
──漫才と言いながらただただ歌を歌うって、大変そうな気もするんですが。
土屋 たしかにあのネタに関しては、最初にネタ合わせをしたとき、サビで笑っちゃったんですよ。そこはちょっと苦労しましたね。スイッチを切らなきゃいけないんです。
──スイッチを切る?
土屋 あのネタをやっている間は、僕は芸人ではないですね。僕のふだんの役割であるツッコミはしなくていいわけですから。あのネタのときだけ転職している気持ちです。
塙 改めて考えると、変なネタですよねえ。
土屋 「ボケとツッコミが逆ですね」って言われるんですけど、それは違うんですよ。僕は別にボケてないんですよ。塙さんに「テレサ・テンさんを歌って」と言われて、歌っているだけなので。
塙 なぜこういうネタをやるかというと、要は負担を分けるためなんですよ。僕はネタをつくってるから、毎回すっごい大変なわけです。でも、独演会のときも僕ら、練習はあまりしないんです。だからこういうネタとか、『半沢直樹』のシーンを再現するネタとか、覚えるのが大変なネタを土屋に渡す。それを任せることで、ちょうど比率が合う。
土屋 ハハハ! 働かせようとしてたんだ?
塙 あのネタの面白さには、「よく覚えたな」という笑いも乗っかってるんですよね。それって独演会ならではじゃないですか。歌にツッコミを入れるならCDでもいいけど、それをCDに任せずに、人がわざわざ覚える無意味さにも面白さがある。CAのネタなんて、土屋は数分間しゃべりっぱなしのセリフを全部覚えてるから、歌よりもっと大変ですよ。
土屋 ンフフ。
塙 だから、本当になんでもいいんです。今度は大相撲中継の実況を土屋にぜんぶ覚えてもらって、それに対して俺がツッコむのでもいい。「東前頭、何枚目でもいいだろ!」とか。
土屋 塙さんがネタをつくっているから、僕に少しでも働かせようとしてるんだな、というのは薄々感じてました。でも歌はわりと覚えるのが楽でしたよ。
塙 歌はそんなに難しくないね。
土屋 ただ歌手じゃないんで、なんとも言えない気持ちにはなりますけどね。
──今回、おふたりはラップも披露されていましたね。あれも、独演会でしか観られないネタでは?
塙 いや、あれはテレビでやってみたいんですよ。「PERFECT HUMAN」みたいな感じにならないですかね?


2017.3.10
[text]釣木文恵 [photo]相澤心也


ピクトアップ105号の「芸人、かく語りき」では、おふたりのポートレイトとオリジナルなスタンスを伝えるインタビューを掲載!


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