芸人、かく語りき
vol.15 鳥居みゆき 前編

本誌で連載中の「芸人、かく語りき」とリンクするWEBオリジナル記事。鳥居みゆきさんがとりわけこだわる単独ライブ、そのつくり方とは?

   

torii miyuki
秋田県生まれ。テレビでの活躍の傍ら、舞台への出演も多い。『じゃじゃ馬ならし』(江本純子演出)では主演のケイトを務めた。14年からはラブ守永らと4人組コントユニット「ブ江ノスアイレス」としての活動もスタート

全員が楽ではいられない、単独ライブという世界

鳥居みゆき


──2年に1回の単独ライブ「狂宴封鎖的世界」は、どれくらい前から準備するんですか?
「構想は1年半前くらいからずっと考えています。でも実際につくりはじめるのは2ヶ月くらい前。集中型なので、ネタは1日1本。今回の『シャングリ・ラ』も7本を7日で書きました」
──膨大なセリフ量ですが、ご自分で書いた脚本は覚えやすかったりするものですか?
「いや、セリフはわざと言いにくくしています。楽にしちゃうと気持ちが入らないので。気持ちが常に入るようにするためには、言いにくくするしかないんです。たとえば『それでさ』なら言いやすいけど、『それでですね』って、口語でも普段使っていない方を選ぶ」
──そういう細かい選択を、ぜんぶ難しい方に。
「はい。けっこう言葉が好きなので、あまり普段は“ら抜き言葉”をしゃべらないようにしているんですけど、ここはリズム的に抜いたほうが気持ちいいなっていうときは葛藤した挙句カットしたりしますよ。間違った日本語だけど響きはこっちの方が気持ちいい、っていうものをどうするかで2日くらい悩んだりもします」
──ネタ部分を取り出すと笑いのタイプがバリエーションに富んでいる感じを受けますが、全体のバランスは考えますか?
「それは気にします。私、クラシックが好きなんですけど、クラシックってずっと単調なわけじゃないじゃないですか。ガッと盛り上がったり、リズムが不規則だから気持ちよく聴いていられる。ずっと同じような感じだったら自分もお客さんも飽きちゃうから、そこのバランスは考えますね。でも“普通のバランス”じゃなく、ずっと緊張が続いたなと思ったら、そこではなくて、もう一個我慢したくらいでユルくするとか(笑)」
──お客さんを……。
「苦しめたいんです(即答)」
──気持ちよく観られるライブではなく。
「気持ちよく観られちゃうと集中はしないでしょ。集中してほしいんです。でも集中ってそんなに長い時間できないんですよね。冒頭はしっかり見てくれるから、難しいことも入れちゃいます。そうやってストーリーの最初を知ってもらう。そこはウケなくてもいい。映画でも最初ってあまり把握できないじゃないですか。でもだんだんリラックスしてわかってくる。そういう見せ方は考えています」
──鳥居さん以外のキャストは、ラブ守永さんをはじめ長く出演されている方が多いですよね。みなさん、鳥居さんの世界観にすっと入られるんでしょうか?
「ツーカーの部分がありすぎる分、これでいいんでしょ? って感じになっちゃうから、こっちは演出、あっちはプレイヤーと割り切ってけっこう言います。だから関係性が悪くなっちゃう(笑)。きーぽんっていう仲のいい女芸人がいつも出てくれるんですけど、『あれ、友だちだったのに』って感じまで追い詰めちゃう。でもいまはちゃんと友だちに戻ってます(笑)」
──鳥居さん自身も、キャストの方も観客も、関わる人全員、楽には……。
「させたくない。楽してないってことは、集中してるってことだから」

[text]釣木文恵 [photo]相澤心也


ピクトアップ#92の「芸人、かく語りき」では、鳥居さんのポートレイトと彼女ならではの芸人道をお聞きしたインタビューを掲載!


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