yasukawa yuka
86年奈良県生まれ。大阪美術専門学校で映像制作を学ぶ。短編映画『カノジョは大丈夫』がオムニバス企画“桃まつりpresentsうそ”の一本として上映された。『Dressing Up』は、主演の祷キララがCO2新人俳優賞を、TAMA NEW WAVEではグランプリと最優秀女優賞を受賞。14年には『激写!カジレナ熱愛中!』が公開された。


映画とはなんだろうと、意識していた
安川有果インタビュー[前編]

「父とふたり暮らしの少女は、幼い頃に死んだ母親に興味を持ち、 父親が隠していた母の過去を知ってしまう……」。初長編映画となった映画『Dressing Up ドレッシングアップ』を、 安川有果監督はどのようにつくりあげたのか。

――『Dressing Up』は2011年のCO2(シネアスト・オーガニゼーション大阪)の助成を受けてつくられた作品ですね。
「そうです。その年の選考委員が黒沢清監督、山下敦弘監督といった方々で、企画を見てもらえることは魅力的でしたし、企画自体にも手応えを感じていたので、応募しました」
――企画が通った後は、特に制約なくつくれたのですか?
「チェックが入るのは、提出した企画から大幅にずれていないかだけで、思った以上に制約はありませんでした。ただ、選考結果が出るのが9月で、翌年3月のお披露目までに完成させなければいけなかったので、時間的な制約はありました。企画意図とプロット、参考作品だけで選考されるので、まだ脚本はできていなかったんです」
――参考作品は短編映画『カノジョは大丈夫』ですか?
「そうです。いまをときめく前野朋哉さんがブレイクする前の貴重な主演作品です(笑)」
――『Dressing Up』は内省的な部分がありつつ、社会的な問題も込められています。企画段階ではどっち方向に振っていたんですか?
「どっちもあった方がいいと思ったんです、戦略的な気持ちも働いたので(笑)。私はその頃、牛丼屋さんでアルバイトしていたんですけど、ものすごく忙しい店で、感情を無にして、手だけを動かすみたいな状況が続いていて。スピード重視の世の中では、感情は邪魔なもので、むしろない方が物事はうまくいくんじゃないかと思えてきて。そうしたら『人間でいるってどういうことなんだろう』と考えが飛躍していったんです(笑)。あと自分は関西出身なので、小学生のときに神戸の事件があって、それが心に残っていました。あの事件をいつか描きたいと思っていました。そのふたつが結びついたんです。日常の中に、突如感情を爆発させる存在が現れ、それまでスムースに流れていたものを止めてしまう。それが周囲に考えるきっかけを与えるみたいな、ざっくりした構造が浮かびました」
――物語の構造を考えるのは得意なんですか?
「そうですね。いま準備している作品も構造が浮かんで、一気にプロットが書けました。でも、そのやり方だと理屈っぽくなっちゃうんです。だから、ほかの監督さんはどうやって考えるんだろう?と気になります。私の場合は、自分がそのとき考えていることと、構造みたいなものが結びついてひとつの映画になる感じです」
――いきなり脚本を書き始めることはない?
「『カノジョは大丈夫』はそうでした。実際、撮るときのことを考えたそっちの方がよくて(笑)。最初にプロットで、大掛かりな話をつくって、それをシナリオに落とし込んでいく作業の方がよっぽどきついんです。でも、企画を通そうと思ったら、まずプロットが必要な世界なので、いまのやり方に慣れていくべきなのかもしれません」
――俯瞰の映像は、狙いですか?
「それは意識したところです。(主人公の)育美は母を求めて探しますが、その母はもう亡くなっている。その母親の視点というか、母親がどこかから育美を見ているんじゃないかみたいにも感じてもらえればいいなと考えました。映像はそういう表現ができると思っていたので」
――ほかに映画だからこそできる表現と感じるものは、ほかにありますか?
「映画とはなんだろうと、意識していたとは思います。演出で言うと、時間がなかったこともありますが、あまり決めてかからずに、その場でもらった感情をすくいとりたいと思いました。(育美を演じた)キララちゃんは役づくりをするタイプではなく、そのときの自分の気持ちを素直に出してくれる人なんです。キララちゃんをはじめとした役者さんの表情といったものは一瞬、一瞬とらえていきたいと思いました」
――祷キララさんは良かったです。
「そうですね。彼女の存在感に負うところが大きい、彼女ありきの映画になったと思います」
――どこで存在を知ったのですか?
「柴田(剛)監督の『堀川中立売』で、宇宙の子供たちのリーダーみたいな、ぶっ飛んだ役をやっていて、番長感もあったんです。そんな迫力が出せる女の子もめったにいるものではないし(笑)。それでオーディションに来てもらったら、普通の女の子なのに、辛辣なセリフとかもすらっと読んでくれて、妙な迫力があってよかったので、お願いしました」
――どのような演出を?
「私は役者さんが脚本を読んでどういう準備をしてくれているのか見てから、調整していきたいんです。何も説明せずに『やってみて』と言ったら、キララちゃんは『あ、そうだね。これがいいね』というものを一発目から出してくるので、それを少しつめていくだけで、あまり多くのことは言わなかったです。特に気持ちの部分はそこまで説明せずに。1点を見つめて歩いてほしいとか、そういう具体的なことは言いました(笑)。気持ちは自分でつくってねという感じでした」
後編へ続く



Dressing Up ドレッシングアップ
監督・脚本・編集/安川有果 撮影/四宮秀俊
照明/大嶋龍輔 録音・音楽/松野泉
出演/祷キララ 鈴木卓爾 佐藤歌恋 渡辺朋弥
平原夕馨 デカルコ・マリィ ほか
制作・配給/ドレッシング・アップ(12/日本/68min)
8/15~シアター・イメージフォーラムにてレイトショー公開
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映画『Dressing Up ドレッシングアップ』オフィシャルサイト