「あ、これはいまの私だ」
[監督]藤村明世× 久保陽香インタビュー〈前編〉
藤村明世にとっての長編映画初監督作であり、久保陽香にとっての長編初主演映画となった『見栄を張る』。職人的でありながら、パーソナルも反映した藤村の脚本と演出は力強く、映画の冒頭とエンディングで表情が違う久保の演技はエモーションにあふれている。ふたりにスポットライトをあてることになるであろう本作は、どのように生まれたのか?
――若手映像作家の人材育成事業であるシネアスト・オーガニゼーション大阪(CO2)に、「泣き屋」を題材にした脚本を送り、コンペを通過して映画化が決まったと聞きました。当初の脚本では、主人公の絵梨子のキャラクターが違ったそうですね。
藤村「そうです。そのときは女優ではなく、夢のないOLでした。でも、それだと全然書けなくて、もう少し自分に寄せて、夢に向かって悶々としている、どっちつかずの子みたいなキャラクターになってからはすらすら書けました」
――そのほか、ご自身を投影した部分が多いのですか?
藤村「でも、まんまの私というわけではないですね。実体験をシーンに反映させたところもありますが、〈地元に帰る〉〈地元に元カレがいる〉〈方言がある〉といった要素は、わたしの憧れで、バランスよく書けた気がします」
――久保さんは脚本を読んだとき、どのような印象を持ちましたか?
久保「お話をいただいたとき、わたしの状況は絵梨子そのものだったんです。仕事に浮き沈みがあって、うまくいかへんくて。『このままでもいいんだけど……、このままでいいのかな』と悶々としていました。家族との関係もうまくいってなくて、実家に帰りづらい状況だったんです(笑)。だから、『あ、これはいまの私だ』と、そのまま入ってきましたね」
――今作は、シリアスでもあり、コミカルでもあります。演じる上で、そのバランスをとらえるのが難しかったのではないですか?
久保「全部自分に置き換えて演じることができました。逆にいまの自分が絵梨子を演じられるかと言ったら、難しいかもしれない。あのときだから出てきた表情や芝居があったと思います。脚本には、当時のわたしの背中を押してくれる言葉がありました。『これ、本当に20代の女性の監督が書いたのかな?』と思えるぐらい渋いセリフまわしもあって、若さが全然感じられなかった(笑)」
藤村「(笑)」
久保「それが良さなんですけど(笑)。最近の若い人が撮る作品とはイメージがかけ離れていて、面白いと思いました」
――藤村さんは、久保さんにどのような演出を?
藤村「撮影前に一週間ぐらいかけて稽古をして、そこで絵梨子像も詳細にお伝えしたんです。だから、撮影に入ってからはお任せでした。いま思い出したんですけど、演出は抽象的でしたね(笑)」
久保「でも、流れというか、動作については細かかったです。とはいえ、一挙手一投足を決め込むのではなくて、ポイントだけ言われて、あとは自由にやらせてもらう感じでした」
――テイク数は?
藤村「『ちょっと違うパターンでお願いします』みたいな感じで、テイク数は重ねました」
久保「『いまのOKです』と言われて、『次に行くのかな』と思ったら、『じゃあ、別のあれでお願いします』と(笑)」
――役者さんによっては、怒る人もいますよね。
久保「わたしは楽しんでやってました。次はなにしようかな?と」
藤村「本当にありがたい(笑)」
――念のためのもうワンテイクなんですか?
藤村「理由はあまり覚えていなくて(笑)。たぶん、自分が思いもよらぬものを引き出せそうとなったときに言っていたんだと思います。本当に違うときは『こうやってください』と言っていたので」
――OKテイクの基準は明確なんですか?
藤村「頭の中に具体的な正解みたいなものがあって、そこに近づいたらOKを出すんです。ただ、OKテイクでも、いまの芝居はもうちょっと違う展開がありそうだなと思ったときには『違うパターンで』と言っていた気がします」
――キャラクターがブレることはなかったのですか?
久保「そこは監督が見てくれていたので。特に撮り順がバラバラだったので、感情の起伏が自然に流れているか、出しすぎていたら言ってくださいと監督にお願いしていました」
kubo haruka |
fujimura akiyo |
見栄を張る
監督・脚本/藤村明世 出演/久保陽香 岡田篤哉 似鳥美貴 ほか 配給/太秦(17/日本/93min)
周囲には女優として見栄を張りながらも、鳴かず飛ばずな毎日を過ごす絵梨子。ある日、姉の訃報を受け帰郷した絵梨子は、姉が葬儀で参列者の涙を誘う「泣き屋」の仕事をしていたことを知る。その仕事の真の役割を知らぬまま、絵梨子は簡単にできると思い、「泣き屋」を始めてみるのだが……。
3/24~渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
©Akiyo Fujimura
映画『見栄を張る』オフィシャルサイト