横浜シネマ・ジャック&ベティの30周年企画作品『誰かの花』。
主人公・孝秋を演じたのは、『ケンとカズ』で注目を集め、
映画、ドラマ、舞台と様々なジャンルで活躍するカトウシンスケ。
どのように奥田裕介監督とコミュニケーションをとり、本作へと臨んだのか。
撮影前に得られた監督との有意義な時間
――監督との出会いは、カトウさんが奥田さんのトークショーを観に行ったことがきっかけだったそうですね。
「そうです。飯塚(冬酒・『誰かの花』プロデューサー)さんに呼んでもらいました」
――その後、奥田監督とは何度か食事をしたり、親交を深めたと伺いました。
「映画のことだったり、いろんな話をしたんです。その中で、奥田監督の物の考え方、人への接し方が居心地良いと感じました。次回作が気になっていたら、出演依頼をいただけるという幸運な結果になって嬉しかったですね」
――脚本を読まれて、どのような印象を?
「登場人物ひとりひとりが生き生きと動いていて、その結果、物語が動いていく。誠実で丁寧だし、とってつけたような表現やシーンがなくて、奥田監督の人となりが現れていると感じました。ただ、『脚本を読んでください。いま直していて、週明けには送りますから』と聞いてから、1週間かかったんです。飯塚プロデューサーに『まだ届かないんですけど』と伝えたら、『奥田監督は納得いくところまでつめているみたいだから、待ってあげてください』という返事で、不安はなかったですけど苦痛でしたね(笑)。早く読みたいという純粋な気持ちが高かったので。届いた脚本を読んで、待った甲斐があったと思いました」
――密なコミュニケーションは、どの監督さんともとられるのですか?
「全然そんなことないです(笑)。基本的には監督のやり方や流れの中で監督が撮りたいものを探っていくという感じです。
大勢人がいるところは苦手だし、今は頑張ってしゃべってますけど、人見知りなところがあるのだと思います。でも、奥田さんとは脚本について意見を聞かれて、『監督が嫌でなければ話をしたいです』と言ったら、『ぜひ』と言っていただいて。1時間半ぐらい話そうと思っていたら、5時間ぐらい話していました(笑)」
――撮影前にキャラクターをつくっていく作業を一緒に行ったのですか?
「キャラクターよりも、脚本や映画の全体の流れ、奥田監督がなぜこの映画を撮らないといけないのか?といったことが多かったです。役のことを考え始めると、話全体を見るときに視野が曇るというか、ぶれてしまうので。それは監督も一緒で、演出のことから考えるとテキストとしての出来が鈍るということはあったと思います。できるできないは置いておいて、まず脚本を高めていく作業を『ここから先は役のことを考えなければいけない』というリミットまでやっていました。そのやりとりの中で孝秋という人物が見えてきたところはあるし、お互いに必要な材料が蓄えられていきました。それもあって撮影中に演出の訂正が入ったときや僕がアイデアを提案したときに、お互い考えていることがすぐに読めるというか、言葉をそんなに交わさなくてもわかる関係性がつくれたと思います」
――そういった時間がとれるのは贅沢なことですね。
「まったくそうで、有意義な時間でしたね。奥田監督だからこそ、できたことだと思います。すべての作品で許されることではないし、現場に役者がポンときて、ポンとやることを信じている監督もいるし、僕もその良さはあると思ってるので」
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