カトウシンスケさん

 


「さよなら」という一言に込めた意味

――劇中、村上穂乃佳さん扮する長谷川里美に「さよなら」と告げるシーンが印象的でした。奥田監督によると、あのセリフは脚本にはなくてカトウさんのアドリブ。テストで言ったのに、本番の最初のテイクでは言わなかったと聞きました。
「監督、よく覚えてますね(笑)。あれはやろうと思っていました。ただ、本番前に余計かなと思って日和ったら、監督から『あれは入れて欲しいです』と言われたんです。劇中、孝秋が長谷川とエレベーターに乗るシーンは2回あって、最初は植木鉢の落下事故が起きて、互いに父親がやったのではないかという疑念が生まれた直後。孝秋は長谷川が去っていくときに『お気をつけて』と言います。あれも台本にはなかったセリフです。孝秋は長谷川がお父さんのことを他言しないから味方なのかもしれない、と考え始める。恋仲ではないけど、ロマンティックな言い方をすれば秘密を共有している。でも、味方だよね?と確認するとなにかが壊れるかもしれない。好きだと告白して『ごめんなさい、そういう風に見てないです』みたいなことになるのが怖い。そんな中でかけた言葉が相手を気遣う挨拶。

カトウシンスケさん でも、2回目は疑念も膨らんでいて、長谷川にひどいこともして、今度は『もう来るな』という意味で『さよなら』と言うんです。孝秋は向き合わずに、逃げたわけです。(被害者の妻である)あかりに『自分の父親がやったかもしれない』と告白をしたら、責められるかもしれないけど、彼女たちが楽になるんじゃないか、と葛藤している中で長谷川から『(黙っていることは)間違っている』と言われる。孝秋としては、『間違っていることなんてわかってるよ』と。彼にとっては傷ついている両親を、これ以上傷つけないことの方が大事なんです。だから、言いあうこともなく、『さよなら』と告げる。奥田監督も、そういうシーンにしたかったんだなとわかって、相思相愛だと思いましたね(笑)」
――セリフ一言で、そこまで突き詰めるんですね。
「そうですね。台本にない言葉を僕らが言うのは勇気が必要というか。作家がつくった世界を壊す可能性があるじゃないですか。役者がこっちの方がいいんじゃないかと思っても、監督が見ている全体のヴィジョンからすれば違うかもしれない。だから、精査して考え抜いたものをぶつけてます。求められない限りはその場のノリでやることはないですね。たまに反応して言葉が溢れる事はありますけど。
ただ、往々にしてやらない方が良いことが多いと思います(笑)。今回、奥田さんは任せてくれていて、ダメだったらダメとジャッジしてくれました。それは台本に書いてある言葉も同じです」

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