辻凪子さん

 

主演・辻凪子、監督・磯部鉄平、
ふたりの「気が向いたときに制作される」という映画『凪の憂鬱』シリーズ。
2018年の『高校生編』、2020年の『大学生編』、2本の短編を経て、
3本目にして長編化&劇場公開となった。
「頭の中にセリフ入れて、その場にいるだけだった」語る辻、
現場はどのようなものだったのか。


その場を感じながらセリフを発していくみたいな感じでした

──――磯部鉄平監督との出会いは?
「藤村明世監督の『見栄を張る』(16)にわたしはキャストとして、磯部さんは助監督として参加していて知り合いました。その2年後に、出演作の『温泉しかばね芸者』(監督/鳴瀬聖人)が第11回オホーツク網走フィルムフェスティバルで上映されることになって、磯部さんも別の作品で招待されていて、『せっかく網走に行くならなにかつくろうよ』と、撮影したのが『凪の憂鬱 高校生編』です」
――主人公の名前が凪になったのは?
「磯部さんがわたしで撮るなら『凪で』と決めました」
――撮影期間は?
「1日です」
――脚本は事前にあったのですか?
「ありました。でも、最終的なものができ上がってきたのは当日でした(笑)。網走は午後4時ぐらいには日が暮れてしまうので、朝早くからめちゃ急ぎで撮った覚えがあります」
――1本目をつくり終えたとき、続きをつくるつもりはあったのですか?
「なかったですね」
――それが2年後の2020年に大学生編を制作されて。
「磯部さんから召集がかったんです(笑)。『この時期空いてる? 何か撮ろう』みたいな」
――なぜ続編を撮ろうと思ったのか、理由は聞きましたか?
「磯部さんの中にはあると思うんですけど、伝えられてはいないです。ただ『大学生編』のときは磯部さんが撮る予定だった映画がコロナで延期になってしまって、『空いてる人、みんなで撮ろう』と声がかかったんです」

辻凪子さん

――今回は長編です。しっかりとした脚本が事前にあったのですか?
「はい。でも、撮影しながら変わっていきました。1日の撮影が終わったら、その夜に監督と助監督さん、脚本家さんが集まって、話し合って、そこで書き換えたものを翌朝に渡される(笑)。磯部組はそういうスタイルですね。めっちゃ必死で覚えて、体の中にセリフを入れてすぐ撮影だったので、その場を感じながらセリフを発していくみたいな感じでした」
――シーンの大枠はそのままで、セリフなど細かいところが変化する?
「そうですね」
――脚本は磯部監督、永井和男さん、谷口慈彦さんで書かれています。シーンごとに分業ですか? ひとつのシーンを3人で書いているのですか?
「多分、磯部さんがおおもとの脚本を書いて、それを永井さん、プロデューサーでもある谷口さん、3人で改稿していったんだと思います。怪談のシーンの長ゼリフは永井さんが書かれたと聞いています」
――辻さんは監督作品もあり、脚本も書かれるわけですが、このシリーズでは脚本を書かない理由があるのですか?
「わたしは俳優をやるときは俳優だけに専念したいんです。『凪の憂鬱』では脚本を書かないかと誘われてないですし、誘われても断ったかもしれない(笑)。でも、自分で監督する作品は必ず自分で書きます。ほかの人の脚本では監督をやらないかもしれないです」
――凪は、ご自身とは遠いキャラクターですか?
「でも、あて書きなので、磯部さんが普段のわたしを観察しながら、わかってくださりながら、書いてくださっていると思います。コメディエンヌとしてわたしがいつも演じているのは、ボケたり、はっちゃけたり、発信する側なんです。でも、本来の自分は陰キャラで、受け身やし、友達といるときは結構ツッコミ側。だから凪は普段のわたしにめっちゃ似てますね」
――違う部分もありますか?
「わたしは夢想家というか夢を見ている人なんですけど、凪は現実を見ている。そこは違うかもしれないです」
――根矢涼香さんをはじめ共演者の方たちも、実名が役名になっていますが、みなさんご自身のままで演じていらっしゃるのですか?
「そうですね。そのままで、つくらずにやっていると思います。根矢ちゃんは友達ですし、(佐々木)詩音も大学の同級生。初めましてでつくった演技ではなくて、普段のわたしたちが写し出されているかもしれないです」
――そういうところを人に観られる感覚は?
「試写で観たとき、寝ている姿とか生々しすぎて、ちょっと大丈夫なんかなと思いました(笑)」

辻凪子さん

辻凪子 ▷後篇へ