「よく納得させられたな、この人を」と思います(笑)
――先ほどのお話だと、毎熊さんは「人に見せるもの」という意識が強くあったわけですね。
毎熊「劇場で流すなら最低限のクオリティだったりが必要だとは考えていました。僕は林さんと何本も短編を一緒にやっていて、出る側の人間としては僕が一番林さんのいいところを知っているという自信があるんです。林さんにしか切り取れない独特の魅力があって、もっとも純粋な映画の魅力だけを伝えられたらいいなと思っていました」
林「いま話を聞いていて、バランスよくつくれたのかなと思います、二人でね。やっぱりお金のない映画だと、低予算でもこんなに上手に撮れたんだみたいなのを目指してしまいがちなんです。そのよく分からない承認欲求みたいなものに侵されたくないなと思いながらつくっていましたね。毎熊くんは僕の良さを指摘してくれた上で、厳しいことを言ってくれた。『よく納得させられたな、この人を』と思います(笑)」
毎熊「(笑)」
――そもそも毎熊さんはなぜプロデューサーを?
毎熊「正直言うと、プロデューサーとして入るつもりなかったんです。その肩書きにはすごく責任感がある気がしたので。でも、世間の人はエンガワのことを知らないし、僕がこの作品を宣伝していると、なんでそんなに応援しているんですか?と言われるんです」
林「なるほどね」
毎熊「「応援じゃなくて自分の映画なんだけど……」と思って。やっぱり自分がプロデュースをしていると宣言して、腹をくくらないと他人には伝わらないと思いました。実際、そこからは前よりも責任を持つようになりました」
――最後にインディペンデントでしかできないことは、なんだと感じていますか?
林「ちょっと違う話になっちゃうかもしれないですけど、昔は『桃太郎』みたいな作品をつくりたいと思っていたんです。誰がつくったか分からないけど、みんな知っている。最近は考えが変わってきています。これからは自分の好みに特化した2時間の映画をワンクリックでAIがつくってくれる時代が来ると感じていて。そうやってできたものは、ちゃんと感動できると思うんです。例えば絵画だとピカソは多くの人にとって価値がありますけど、個人としては自分の子供が描いた1枚の絵の方がよっぽど価値があるじゃないですか。誰がつくったかがより重要になってくる、そういうムーブメントはインディーズから必ず起きるだろうなと思っています」
毎熊「インディーズは自主的にやるものじゃないですか。理想としては、ストリート感覚を大切にしたいんです。ヒップホップは、ストリートで即興的に生まれたから面白い。『東京ランドマーク』もある意味ストリートな感覚でつくったものだと思うんです。このやり方でつくったものが商業ラインに乗ることは100%ない。だけど、いまやっちゃおうと言って繋げたもの、撮ったものが公開されている。そういう実験はインディーズじゃないとできないことだと思います。あと10万円で、1日で撮った映画を2000円で観たって悪くはない気がする。1本の映画としてちゃんと人になにかを届けられるものがあるんだったら。それはストリート的な感覚だなと思う。そういうものがより発展して、もっと多様化していけばいいのになと思います」
2024.7.5
[photo]久田路 [text]浅川達也
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