渋川清彦×佐向大

 


          
『酔うと化け物になる父がつらい』以来、
5年ぶりの主演作『中山教頭の人生テスト』が公開となる渋川清彦。
今回、タッグを組んだのは『夜を走る』も高い評価を受けた佐向大監督。
ふたりだからこそできたヒューマンドラマとは?


映画ではあまり描かれない「教頭」
――渋川さんは、オファーがあったとき、どう思われましたか?
渋川「先生ものの映画、ドラマは何本もありますけど、教頭を主人公にしたものはあまりないし、どういうものになるのかまったく分からなかったので面白そうだと思いました。それと佐向さんの『夜を走る』の空気感が、すごく好きなんです。なので、お話をいただいて嬉しかったですね。脚本を読んで佐向さんの世界というか、不穏さ、正解がない感じがありました」
――渋川さんはこの作品に出たいというモチベーションは、この監督と仕事したいというところですか?
渋川「気になる監督が新作を撮るとわかったらアプローチします。誘ってくれた順番も大きいです」

――今回、佐向さんは小池和洋さん(本作の企画・原案・プロデューサー)からバトンタッチして監督を務めることになったそうですね。
佐向「最初は小池さんが監督と脚本をやると聞いていたんです。それで脚本の意見を求められて、あるとき脚本を書いてもらえませんかと言われました」
渋川「小池さんの脚本を読んでいないのですが、その名残は残っていますか?」
佐向「校長試験を受ける教頭先生の話というのはもちろんですし、家庭でも学校でも問題が起きているという基本的な設定は使っています。ただ、中身やセリフはほぼ変えました」
渋川「山梨のウェイトリフティング部が出てくるのは、名残りですよね」
佐向「そうなんです、あれは必ず出して欲しいと言われたんです。プロデューサーの小池さんが山梨出身で、その関係もあって金銭面でも、撮影場所などでも地元の方たちにすごく協力していただきました。それで『ここを使って欲しい』というリクエストがあったので、脚本を書く段階で組み込んでいきました」
――高野志穂さん扮する教師の椎名香澄が派手な車に乗ってるのは?
佐向「それも同じ理由によるものです(笑)」
渋川「あれも不思議ですよね(笑)。うまく料理したなと思いました」
佐向「椎名先生って子供たちに寄り添っていることは間違いないけど、彼女の行動が正しいのかどうかはなかなか難しいところで。キャラクターとして過剰な部分があるというのは面白いかなと……、いま自分を納得させています」
渋川「(笑)。普通だったら、思いつかないですよね。先生で、指抜きの革手袋して、走り屋の車って」
佐向「まるでDAIGOですよ」
渋川「セリフでもいじったし」
佐向「スルーしたら余計おかしいし。それですごくうまくいじっていただいて」
渋川「脚本にはなかったですもんね。高野さんも別に嫌だとか言わない人で」
佐向「ノリノリでしたよ。衣装合わせのときから(笑)」
――すごくこだわって、やっているところなのかな、と。
渋川「そう見えますよね。今日、ずっと取材してきたけど、そこは誰もつっこまなかった。聞いていいのかな?って思ってたんですかね(笑)」
佐向「(笑)」

渋川さん ――渋川さんは中山というキャラクターをどう捉えましたか?
渋川「礼央奈というひきこもりの女の子の家に行って、『私、実は先生になりたいんだよね。なれるかな?』って聞かれたときに、中山は『わかんない』みたいなことを言うんです。普通だったら先生は『頑張ればなれるよ』って、根拠のないことを言うじゃないですか。でも、『どうかな……』って言うんです。あれはすごく好きですね。あとキャッチコピーにもなっている『先生や大人がこうしなさいって言うことは全部まちがってる』というセリフもすごく好きです。オレもそう思うんですけど、この映画では『全部』と言い切ってますからね。そこは佐向さんのキャラクターのつけ方なのかな。『大人でもいい大人はいるよ』と思ったけど(笑)」
──あのセリフの後、早速、自転車で道を間違えますね。台本にあったのですか?
渋川「ないですよね」
佐向「その場で。あのままいったらかっこよすぎじゃないかなって。この人、道を間違えるだろうって」
渋川「(笑)」

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