大塚寧々さん

 


          
『ソーゾク』は、 ごくごく普通の平凡な家庭が直面する遺産相続をめぐる物語。
誰もが経験する可能性のあるトラブルを、ユーモラスに描き出す。
仲がよかった妹弟との距離に変化をきたす長女・礼子を体現したのは大塚寧々。
30余年にわたる演技の仕事は、独特のスタンスを彼女に授けていた。


──遺産相続という現実問題のシビアさをコミカルに描く本作ですが、礼子を始めとする姉弟たちを演じるのにあたっては、シリアス過ぎもせず、ベタな笑いにも行かない、絶妙なバランスが求められたのではと想像します。
「そうですね」
──そのトーンはどのように探ったのでしょう。
「(藤村磨実也)監督ご本人が脚本を書かれていることもあるんですけど、最初に読ませていただいたときに、すでに世界観がしっかりしていたんです。なので、あとはいかに『家庭の感じ』を出すかを考えました。『家です』というくらいの雑な感じ(笑)と言うんでしょうか。相手に異を唱えるときも、かしこまった感じではなく寝っ転がって『え〜!』って反応する、みたいな感じです(笑)。とはいえ、しんみりする場面もあるので、その両方のバランスをとることが大切でした」

それこそが人間の愚かさで、愛おしさ
──お姉ちゃんという役柄はいかがでしたか?
「(妹・聡美役の有森)也実さんとお会いするまでは、やっぱり緊張しました。初対面ですし、後輩である私がお姉さん役なので」
──大塚さんご自身は……。
「ひとりっ子です」
──姉の実体験はないわけですね。
「ひとりっ子ですからね(笑)。也実さんには当初、『すいません、撮影中は友達のような言葉遣いになってしまうかもしれないです』と……」
──とお伝えしたんですか。
「……って考えていたんですけど、也実さんは両方の手のひらを広げて迎えてくださったので、そこに甘えて伸び伸びと演じさせていただきました」

大塚さん ──今作にはノウハウものという側面もあります。演じながら勉強になったことはありましたか。
「相続の問題って、家族間でも会話しづらい話題。この映画は『仲がいい家族、兄弟でも、こういうことが起こり得るんですよ。法的な問題が立ち塞がることってありますよ』と教えてくれる。それともうひとつ、それぞれの欲と正義が違うことの滑稽さ、悲しみ、笑いが、至るところに散りばめられている。『人間ってこうだよね』みたいな。それは愚かでもあり、愛おしくもあるところです」
──他人事ではないとも感じました。
「大人になってあまり会わなくなったご兄弟と、この映画を観に行っていただけたら、そしてそのあと、飲みに行ってくれたらうれしいです(笑)。ご家族同士でも、いとこでもいいんです、『こういうこともあるんだね』と話すきっかけになったらすごくうれしいですね」

「これ美味しかったよ、食べて」という感覚
──大塚さんは出演作が途切れることなく、活動を続けていらっしゃいます。
「いやいや。感謝の気持ちでいっぱいです(笑)」
──続ける秘訣はなんでしょう。
「わからないです(笑)」
──では、ポリシーや座右の銘はありますか。
「あまりないですね。ただ脚本を大事に読む、ということはあるかもしれないです。読んで、自分なりに『この役はこうかな』と考えて現場に入る、けれど、凝り固まらないようにしています。相手の役者さんのお芝居に合わせる。『自分はこう思うんですけど、どうですか』と言うことはありますけど」
──脚本を読んで、うまく演じられそうだったら出演依頼を受けるということですか。
「そういうことではないです。わかりやすく言うと、すごく美味しいものを食べたときは友達にも『これ美味しかったよ。食べて食べて』って言いたくなるじゃないですか。それと一緒で、その脚本が映画になったときに、多くの人に観てもらいたいと思える脚本であるかどうかを大事にしています」
──若い俳優には「爪痕を残したい」と考える方もいらっしゃいますが……。
「私はそういう風には考えないです。もちろん役には全力で向き合うんですけど」
──大塚さんは、そういう域にはいらっしゃらないと思います。でもひょっとして、若かりし頃は「私が私が」と前に出たい気持ちがありませんでしたか?
「ないです。むしろ苦手(笑)。『作品はみんなでつくるもの』という意識があるので、私はその考え方は好きではないです(笑)」

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