記者会見レポート

『母と暮せば』クランクアップ記者会見

山田洋次監督の本音「一番大事な映画になるかもしれない」

(1/2ページ)
2015.8.12@東京・港区

母と暮せば4shot


『母と暮せば』は終戦間もない長崎を舞台に、原爆で命を落とした息子と、残された母との対話を描くファンタジー。山田洋次監督の最新作にして、吉永小百合さんの119本目の映画出演作です。4月26日に撮影開始し、7月15日、長崎で終了を迎えたこの作品のクランクアップ記者会見に行ってきました。

会場にはテレビや新聞、雑誌、web媒体などのマスコミが詰め寄せ、ざっと数えただけでも200人以上がひしめいています。
冒頭のあいさつで山田監督と吉永小百合さんは、8月9日にふたりが参加した長崎の平和記念式典の話題に触れました。炎天下で開催された式典の暑さを振り返りながら、監督は「70年前、(原爆を投下されて)5000度の熱で焼かれた人たちはどれだけつらかったんだろうとか、その惨状のなか、肉親を捜すことはどれほど苦しかっただろう、そんなことを思った」と語りました。さらに「終戦70年という年にこの作品をつくりあげられることは、とても意義のあることだった」。
吉永さんも「長崎市民のみなさんが、平和に対して強い想いをもっていらっしゃることを感じることができました」と感想を述べ、「若い人たちのなかには、広島、長崎で何が起きたのか知らないという方も増えていると聞いています。ここにいらっしゃる浅野(忠信)さん、二宮(和也)さん、黒木(華)さんの年代の方たち、そして10代の方たちも、この映画を観て『これから私たちがどんな風に未来に向かって歩いていかなければいけないか』ということを感じていただけたら、こんなにうれしいことはありません」と続けました。
二宮さんの「改めて長崎の原爆について勉強する機会を与えていただき、それを体現することができました。自分がどう考えるかというものは、役を通して、映画のなかに置いてきたつもりです。ぜひ何度も観ていただいて、感じてください」というあいさつを、吉永さんはうなずきながら聞いています。
黒木さんは「私は戦争をリアルに知らない世代。監督と吉永さんにたくさんお話をうかがうことができたうえで、町子という前向きに生きていく役をやらせていただけて光栄です。本当にうれしく想います」。
過去に山田監督、吉永さん主演の『母べえ』にも出演している浅野さんは「今回も大切な役をやらせていただき、感激しております」とあいさつをしました。

続いて映画製作のいきさつを山田監督は、こう説明しました。
「きっかけは、井上ひさしさん(戯曲家、小説家。2010年永眠)の娘である井上麻矢さんからの相談です。井上ひさしさんは『父と暮せば』に続いて、『木の上の軍隊』という戯曲を書かれた。『もうひとつ、長崎を舞台にした「母と暮せば」をつくりたい、それを三部作としてつくり終えたときに自分の一生は終わる』と考えていたそうです。それを聞いて、できるんじゃないかと思った。『父と暮らせば』は娘が生き残って、お父さんが亡くなる話ですが、『母と暮せば』は、お母さんが生き残って、息子が原爆で死んでしまう。息子が亡霊となって現れ、亡霊と母親との対話が中心になって──そんなイメージが即座に浮かんだし、僕がつくりたい映画だと思いました。しかも敗戦70年目に公開できる。運命のようなものを感じました。長い間にいろんな映画をつくってきましたが、そのなかでも一番大事な映画になるんじゃないのかな、と。企画を実現させてほしいとお願いしましたし、覚悟を決めました」

監督の意気込みを目の当たりにしたようで、「今回は一番、監督の情熱を感じました」と吉永さん。現場の感想を問われて、「“鬼気迫る”と言うと語弊がありますけど、1カット1カット、心からの演出をなさっていました。ただ私がそれに答えられなくて、落ち込むこともありました。そんなときでも、息子役の二宮さんが軽やかに演技をしてくださったので、それに助けられて最後までできたと思います」と答えました。二宮さんは「いえいえ」とばかりに恥ずかしそうに恐縮しています。


 [1] [2]