芸人、かく語りき
vol.24 バカリズム 後編

本誌98号の「芸人、かく語りき 」に登場いただいたバカリズム。WEB版・後編では、常に感覚をアップデートするための心がけについてうかがいました。

   

bakarhythm
75年福岡県生まれ。本名、升野英知。多数のテレビ番組に出演するかたわら、12年『世にも奇妙な物語』シリーズの1本を書き下ろしたのをきっかけに、ドラマの脚本家としても活動。
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自分の進化に敏感でいること

バカリズム


──単独ライブの初日と千秋楽で「調子に乗ってどんどん変わっていくコントがある」というお話がありましたが(本誌参照)、たとえば逆に「狙っている部分で笑いがこなかったからカットする」というようなものもあるんでしょうか?
「ありますあります。今回のDVDでも、ネタを1本カットしていますし。それはわりと自分が昔からやっている、バカリズムっぽいシステムのネタだったんですよ。言葉遊びのパターンなんですけど、最近やっていないからやってみようと思ってライブでやった。でも、DVDにするとき客観的に見たら『うわ、だっせえ!』と思ってしまって、カットしました」
──そんなことが。
「言ってしまえばさほど苦労なくつくれてしまうネタなんですよ。それは、ちょっとネタづくりに対してラクしちゃってるんですね。
──でも、ウケていないわけではなかったですよね?
「そうですね。でも単純に古くさいなって。もし自分がいま若手でこのネタを見たとしたら『わー、前の世代の人だー』って感じるだろうなって思っちゃった」
──つねに自分の古さとか進化に敏感なその意識って、どうやって培うものなんですか?
「基本的にいろんなものを否定的に見てるから、じゃないですかね。自分のことも、否定的に見てるから。自分のつくったものに対して、あまり変に愛情を持ちすぎない。それはもう本当に邪魔な感覚なので」
──なるほど。
「なので、『トツギーノ』のこととか僕平気でディスれるし(笑)」
──『R-1ぐらんぷり2006』であんなに大ウケした自身のあのネタを?!
「いや、当時は当時であれでよかったし、あれにはあれの面白さはあるんです。でももういまは恥ずかしくてやれない。でもその感覚があるから、ちゃんと新しく、次はまた新しいものをつくろうと思えるんだろうし」
──その“新しい面白さ”は、他の人のネタに対しても感じるものですか? たとえばバナナマンさんとか、東京03さんとかのネタを見て「新しいな」と思ったりすることは?
「うーん、その二組に対してはただおもしろいなと思う感じかな。バナナマンさんも、03さんもそれぞれつくり方が違いますし。03は、日常にある大人のちょっとしたひと場面を掘り下げていくネタじゃないですか。そんなに非現実的なことはないんですよ。だから、03のネタってずっと古くならないんです。でも、僕はたぶん、そのなかでいったら一番腐るのが早いものだと思うんですよね」
──それは、手法が。
「そう、手法がもう、そういうものなんです。僕のネタは、感覚任せというか、感覚がいちばん重要なので」
──時事ネタならば新しい/古いがはっきりしていますけど、感覚の新旧を判断する作業は難しそうですね。なんとなく時代に合っているかどうか、という……。
「そうですね。だから僕はそんなに長くはやれないと思います。03はずっとあの感じでやっていけると思う」
──でもそのなかでも、きっと普遍的なものがあるんでしょうね。
「そうですね、たまにはあると思います」
──升野さんは、若手のネタを見る機会は?
「ほとんどないです」
──ではその”感覚任せ”は、何かと比べるというのではなくてやっぱりご自身のなかのものなんですね。
「そうですね。つねに自分の他のネタを振り返っては『古いな』とか、『これはかつてあったあのパターンだ』とか、そういうことを考えてそぎ落としていく感じですね」

2016.1.18
[text]釣木文恵 [photo]相澤心也


ピクトアップ98号の「芸人、かく語りき」では、ポートレイトとオリジナルなスタンスを伝えるインタビューを掲載!


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