後藤さん木下監督

 

──それほど映画監督にあこがれていた理由は?
木下 もともとは野球少年だったんですけど、小学校のときに父親が事故で亡くなりまして。それをきっかけに、現実逃避の手段として小説や映画に浸っていったんです。映画を観まくっているうちに「こっち側に行きたい」という思いが大きくなっていった。それで二十歳の頃に映画の専門学校に行ったものの、ケンカをして辞めて。そこから劇団をやって……。劇中でも描いていますけど、あれ、8割は実際にあった出来事です(笑)。映画とは直接関係のない世界で紆余曲折しているうちに、「ホンマになったらな、気がすまん」って意地になっていったんじゃないですかね。映画の現場に入って助監督の下から始めていたら、もしかしたら途中で辞めていたかもしれんなぁとも感じます。我ながら不思議な道筋です。
──後藤さんは映画に思い入れはありますか?
後藤 僕はコントでもやってますけど、自分以外の誰かになるのが基本的に好きなんです。ただ映画に関しては、撮影中は監督のものだと思っています。いかに監督の意向に添えるか。それはプレッシャーでもあるけど、スリルがあって、やりがいも感じます。

気づかれないように、敬語からタメ口へ
──今作は単独初主演作。プレッシャーもやりがいも、ひとしおだったわけですね。
後藤 セリフを自分の言葉にしてナチュラルにしゃべることの難しさを初めて痛感しました。コントは自分らでつくっているのでナチュラルにしゃべるのは当たり前ですけど、用意してもらったセリフは難しい。まんま僕に見えてもうてもいかんし、勇太としてちゃんと成立してんのかなという不安はずっとありました。
木下 最初から演技を固めて来られるよりは、現場で一緒に勇太をつくっていけたらいいなと思っていたし、ホントにどんどん勇太になっていった。最後は後藤くんに見えなかったですね。「モニターのなかにオレがいるぞ!」って、自分の人生を巻き戻して観ているような不思議な感覚を味わいました。
──主演俳優として、特別な気構えはありました?
後藤 だんだん途中で感じてきました。最初のうちは劇団員役のみんなと敬語でしゃべっていたんですけど、座長役でもあるし、実年齢も上だし、これじゃマズいんちゃうかと(笑)。けれどもカメラもあるなか、いきなり変わるのも不自然なので、ホントに境目がないように変えていって、最終的には完全にタメ口に切り換えました(笑)。

井筒和幸監督も交えた不思議な縁
──ジャルジャルのおふたりには、主演映画『ヒーローショー』(10)の公開時に取材したことがあります。「演技がすばらしかった」と伝えたところ、おふたりとも「それは井筒和幸監督の力であって、自分たちの手柄ではない」と。
後藤 本当にそう思っていたので(笑)。
木下 実は僕も井筒作品に出ているんです。『パッチギ!』(05)で、バスをぶっ倒すシーンのキッカケとなる場面に。
後藤 智順(当時の芸名表記:ちすん)さんと一緒に?
木下 そうそう、不良役で(頭突きをされて白目を剥く長崎海星高校の生徒役)。あのシーンで共演した智順も、井筒監督の別の映画に主演した後藤くんも、今作に出てくれたってことに、すごく縁を感じているんです。あとね、クランクイン前、ある事務所に打合せに出かけたとき、偶然、廊下の向こうから井筒監督が歩いてきたんですよ。僕、わーっと走って行って「監督!」言うて。最初は「誰や」って顔をしていたけど、「『パッチギ!』の……」って名乗ったら、「おー! 最近オレの映画出てくれへんな」って。「僕今度、監督するんです」「そうかー、ガンバレ」って。こんな展開ある? なにかに導かれたような感覚です。
──つながるんですね、心に強く持っていたら……。
木下 そうなんです、25年かかりましたけど。ホントにご縁を感じます。

木下半平監督 ピンチとチャンス、秘めた野心
──今作以降の展開もお考えですか?
木下 もちろんです。コロナ禍でいま止まってはいるんですけど、新しい企画のお話をいくつかいただいています。それらが止まっている間にも、「木下やったら、なんかやるんちゃうか」みたいな感じで声をかけていただきまして。ホテルが営業していないときにホテルを借りきってオンライン演劇をやったり(5/1~6、6/24~29、オンライン・イマーシブシアター『泊まれる演劇 In Your Room』/脚本・演出)、オンライン演劇を録画してドラマとして深夜放送したり(6/10~24、オンライン演劇&ドラマ『今夜はオンライン飲み会デス』テレビ西日本/演出・脚本)。それから「オリンピックの枠が空いているから、ドラマを撮ってくれ」って相談があったので、昔やった舞台劇をバババッって撮ってみたり……(ドラマL ステイナイト『クレイジーレイン』7/5~ABCテレビ、7/11~テレビ朝日/原案・演出・脚本)
──逆境に強いですね。
木下 僕はピンチのときのほうがチャンスが来るのかも知れない。

後藤淳平×木下半太対談  前篇へ◁ ▷後編へ